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道に咲く華  作者: おの はるか
私たちは希望の道を諦めない
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正義の使徒編 VS正義の使徒

「く……う……」


 上空に投げ出され、落下していく正義の使徒。まだどこに落ちているのかもわからない。姿勢だけでも元に戻そうとしたところに魔法が降りかかる。


「地の果てまで追いかけよ。【双大蛇】」


 空気を裂く音がする。銀奈が上を見上げると二匹の巨大な大蛇が襲い掛かってくるところであった。


「ちっ」


 舌打ちとともに重心を移動し大蛇にまっすぐ相対すると、噛み千切ろうと口を大きく開いた蛇の頭を剣を振るって縦に切り裂く。


 そしてそれだけでは終わらない。切り裂いた頭に、今度は剣を突き刺し足場にしてしまう。


「目標確認、吸血鬼、シャル・ミルノバッハ」

「ちょ、なんであの姿勢で避けれるのよ!」


 二匹目の大蛇を切り裂きながら正義の使徒は蛇の体を伝って駆け上がる。シャルは吸血鬼の羽を出すととっさに距離を取る。が、使徒の、それも正義の使徒の身体能力を甘く見てしまった。


「はっ!」

「な!?」


 たった一息。その踏み込みだけで銀奈はシャルへと肉薄し、骨の剣を振るう。腹を一文字に裂き、血があふれ出す。が、それだけにとどまらず体にしがみつくと二度三度と剣を突き刺す。


「ぐ……はなれ……ろ!!」


 が、そのままでは終わらない。シャルは突き放し距離を取ると腹の傷をなでる。吸血鬼の再生力もあってかそれだけで傷は癒える。傷が治ったことを確認すると再びの詠唱。目標は血に染まった使徒の剣と服。


「狂い咲き、泣き喚け【血布】」


 魔力を働かせたのは銀奈の体についた血。服にしみ込んだ返り血や剣にしたたる血が布となって腕や足を縛り、


「そのまま落ちろ!」

「く……」


 魔法で生成した土の塊で地面にまるごと叩きつける。


「シャル、大丈夫か」


 遅れてやってきたソルトは着地の瞬間に風魔法で勢いを減衰する。シャルは警戒しながらもその問い明けに答える。


「ええ、少し血を抜かれたけどね。それよりもあいつ……どんな戦闘技術を持ってるのよ」


 がらりと、シャルが叩きつけた土塊が崩れ落ちる。その中から出てきたのはもちろん正義の使徒。ほぼ無傷である。


「どうやったんだ……」

「土をぶつける寸前に縄を切ったのよ。剣を口で持ってね。そのまま自由になった腕で土を両断」

「わけわからねえな……」


 ソルトはぼやきながら剣を構えるのであった。


「【我、正義を実行す】」


 使徒の神届物が発動する。



〇〇〇


「シャル! そっちに行った!」

「わかってる!」


 おちた場所は森。恐らく先ほどから人と魔族の戦場になっている森のどこかだろう。すでに魔族の気配も人の気配もない。


「悪……逃がさない」


 鋭い突きがシャルに襲い掛かる。しかし、全く動けないほど弱体化されていたリナに比べソルトもシャルもそこまで弱体化させられてはいなかった。


「なぜ……悪のくせに……悪い奴のくせに……なぜおまえたちは動ける!」


 自分の神届物が発動しているはずにもかかわらずその効果が今までと比べて薄いことに銀奈自身も気づいている。


「知らねえよ! お前の能力だってさっきの部屋で言ってたことくらいしか知らないんだから」


 シャルの放った使い魔からソルトとシャルは正義の使徒の情報を得ていた。しかし自分たちが弱体化しにくい理由までは把握していない。


 だが、ソルトに全く仮説がないわけでもなかった。


「あれじゃないか? 殺人がダメとか言うなら、そしてお前が基準だというのなら。俺たちが殺した数よりもお前が殺した数の方が多いだけじゃないか?」


 そしていいながら切りかかろうとしたソルトだったが正義の使徒の動きがおかしいことに気づき、立ち止まる。


「……しい」

「ん?」

「そんなのおかしい……そんなのおかしい……おかしいおかしいおかしい。お前たちは悪……悪だ……、悪い人だ。悪い奴だ。そんなお前たちより…私が正しくないはずがない!」


 そう言って、魔力を放出する。そしてそのまま剣にまとわせ振り払う。


「遠山流秘伝三の型」

「まずいか?! シャル!」


 叫ぶが早いか、動くのが早いか、土魔法で生成した腕でシャルを自身の後ろに隠れさせる。


「ど、どうしたの?!」

「俺が魔力障壁張るから何か防御を!」


地鳴(チメイ)


 発動までに準備が間に合ったのはソルトの魔力障壁のみ。だが、薄い紙を裂くかのように破られる。


 攻撃は単純に横一閃であった。しかしその延長すべての魔力による斬撃が襲い掛かった。


 正義の使徒が悪意からではなく使命感から攻撃しているからか【悪意探知】も発動しない。


「くっ……」

「なにこれ!?」


 遅れながらシャルも防御の魔法で固めるがそれごと吹き飛ばされる。


「私は……私は……正しいんだ……。正しくなくちゃいけないんだ……悪を許しちゃいけないんだ……」


 ゆらりゆらりと吹き飛ばされたソルトたちに向かって歩き出す。怒りに任せたのか魔力はほとんど残っていないようだった。


『そうだ……そうだ。お前は正義の使徒なのだ……肺簿kは許されない』

「ん? あの剣……痛っ」


 正義の使徒が肩に担ぐ折れた剣から声がする。それはソルトたちが戦った前の正義の使徒が持っていたものであり、ソルトが折ったもの。


 しかし思考する間もなく体勢すら整えきれてないソルトたちに正義の使徒が襲い掛かる。


「遠山流秘伝七の型【天討つ龍(あまうつりゅう)】」


 振り下ろし、されどその速度、威力はソルトが経験したことのないもの。受けきる体勢もできていない彼に受け止められるものではない。


「ぐあっ!?」

「ソルト!」


 先ほどの攻撃で比較的ダメージの少なかったシャルが短剣でそれを受け止める。魔力で強化した膂力、武器だが簡単に押しのけてくる。


「く……どうするの?!」

「わからない! でも攻撃が通じないわけじゃない。行動不能にさえ追い込めれば……」


 距離を取りながらそう言ったソルト。その目の前に瞬間的に距離を詰める正義の使徒。


「追い込めるものなら……追い込んでみるがいい」


 突き出されるいくつもの突き。ぎりぎりのところでかわしながらソルトは叫ぶ。


「シャル! 肩の剣を!」


 前の使徒との唯一の共通点である折れた剣。そこを狙うように指示を出す。


 瞬間、銀奈の後ろからシャルが土の矢を発射する。狙うは剣の柄部分。破壊するつもりだ。


 反応は劇的だった。


 ソルトに対する攻撃を止め、彼に背を向けてまでその矢をはじき返す。


『よくぞやった。引き続き攻撃を繰り返すがよい』

「邪魔するな」


 折れた剣がしゃべり、それを軽く小突き正義の使徒は剣を握り直す。その反応を見てソルトは確信する。折れた刀が指令を出していると。


「では再び。正義を実行します」


 戦闘が再開された。


〇〇〇


『うーん……唐突に休戦とか聞いて驚いたけどこれはあれだね。ソルトたちが正義の使徒と戦っているのかな。それなら行かなきゃね』


〇〇〇


「堅固、博愛は撃破。あとは……」

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