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道に咲く華  作者: おの はるか
私たちは希望の道を諦めない
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とある戦士の記憶

 魔王討伐の、その奇襲部隊に選ばれた俺達は探知系と隠密系の魔法使いをそれぞれ一人ずつのみを連れ、魔王軍の本拠地にめがけて進出していった。


 基本的には魔族の軍と接敵しないようにしながらだが確実に距離を狭めていくことができたと思う。


 幸先がいいことに上級魔族と呼ばれる存在も何人か交戦することとなった。上級魔族とは魔族のそれぞれをおさめる長のような存在だ。それと交戦し、いずれも撃破できたのは大きいだろう。


 そして目標とする魔王がいる場所にさらに近づいた時だった。


「総員静かに。何かいる」


 探知能力をもつ青年が警戒を呼び掛けた。彼が何かいると言えば必ず厄介なものと遭遇してきたのだ。各自、戦闘の準備へとつつがなく移行し、青年の続報を待つ。


「前方二名。魔族と思われる少年少女です」

「魔力量は?」

「……おそらく魔王級。今まで相手にしてきた上級以上なのは間違いありません」


 少し緊張気味に語る探知魔法の使い手。しかしそれを聞いた戦士たちに驚きはない。今まで戦った上級魔族も強かったが勝てたのだ。そのことが彼らに自信を与えていた。


 気休め程度だが隠密の魔法を全体にかけながら少しずつ反応があった場所へと近づいていく。そして確かに、どうして今まで気づけなかったのかというほど凶悪な魔力反応を感知する。転移で飛んできたのだろうか、それとも今まで隠密の魔法をかけていたのか。どちらにせよ厄介なのは間違いない。


「おいおい、まだこんなのいたのかよ」

「弓兵前へ。できれば一発で仕留めてほしい。あれを逃がせば正規軍のほうにどれだけの損害を引き起こされるか分かったものではない」

 奇襲隊を率いる長が命令を下す。俺の役割はその奇襲が失敗した場合の切り込みだ。

 上級魔族やそれに連なる者は一人で正規軍の百人や二百人程度は簡単に虐殺してしまえる力を持っている。そのため少数精鋭で、出会う彼ら全員と交戦し、撃破しなければ王国の連合が魔族に勝てることはない。


「では行くぞ。放て!」


 弓兵の一人、上級魔族であろうと二人屠った実力者が矢を放つ。狙いすましたその一撃は躱せるものではなく、放つのを見た俺でもその軌道は複雑怪奇で目で追うのは困難だ。


 だが……少年の方は矢が当たる直前に振り向き、ただ一度剣をふるうだけでその矢を打ち落としてしまった。


「奇襲失敗! 総員抜剣! 魔法に続いて突撃せよ! 間違いなく上級魔族だ。絶対に逃すな!」


 隊長の声が響く。もうこちらの存在は間違いなくばれている。隠れる意味はない。それに初撃が防がれたからと言ってこれが初めてではない。むしろ倒せれば幸運だったと考える程度だ。


 俺はすでに抜いていた剣を構え、味方が降らす矢と魔法の雨の後ろを走りながら対象の二人に接近する。


 二人は見事としか言いようがない連携で矢と魔法に対処している。が、それも二人そろってのことだろう。魔法は少女のみが応対しているし、不可視の矢に関しては少年しか感知できていないような動きだ。


 ならば、と俺は自分のやるべきことを決める。それは物理面に特化している少年の撃破。それをしないことには後続の剣士の障害にもなりえる。


 自分の得た固有魔法を思い出す。最初の一撃、その不意打ちの性で言えば恐らく最上の物。


「少年! 覚悟!」


 とびかかりながら振り下ろす剣の一撃。相手もそれを払うべく下から上に剣を振りかぶる。


 勝った。そう確信した。


 固有魔法【分裂剣】。実体を持った剣が俺含め四方向から敵に切りかかる。しかしいずれも不可視。いくら感知に優れていようとそれをかいくぐるのが俺の――


「頭、右腕、左腕、それに心臓か。面白そうな魔法だな」

「な……」


 受け止められた……。不可視であり、他の上級魔族では気配さえばれなかったというのに。


 見ると俺自身の剣は少年の件が。固有魔法で作り出した剣に関してはいずれも地面から延びる土の棘が受け止めていた。


「つ、土魔法……。貴様……いったいどうやって俺の魔法をっ?!」


 慌てて一歩下がろうとしたが、その踏み込んだ足が地面にのめりこみ、そのまま固定されてしまう。やばい、と思ったときにはもう遅い。


 俺の視界に最後に移ったのは少年の振るう黒い剣だった。


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