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道に咲く華  作者: おの はるか
私たちは希望の道を諦めない
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森の逃亡編 二人の子供

「ねえ、ジギちゃんって何かしたいことあるの?」

「あん? なんだ急に」


 二人の少女は森の中を歩む。二人を照らすのは月のわずかな光のみ。だが、紫の髪の少女が迷うことなく進んでいき、彼女に手を引かれながら白黒の髪の少女もついていく。


「だってジギちゃん、普段なんのやる気もないのに最近楽しそうなんだもん。何かやりたいことでもできたのかな~って」

「やりたいことね~。別に考えてねえな」

「そっか。じゃあ次ね。なんで孤児院飛び出したの? 別に私たちだけじゃなくてクル姉様とかソル兄様と一緒でもよかったんじゃないの?」


 おっとっと、と段差に躓きながらも白黒の少女はついていく。


「ああ、そのことか。そんな考えてなかったな。あの時はリア姉さまが心でイライラしてたからな……無理やり連れてきて悪かったな」

「ほんとだよ~。もう」

「いいじゃねえか。お前だって外に来てみたかっただろ」

「そうだけどぉ~」

「それじゃこの話は終わりだ。早く行こうぜ」


 彼女たちは進む。夜の森道を抜けて、二人の少女は……


〇〇〇


「ジギちゃあ〜〜ん!! 話がちが〜〜う!!」


 騎士たちに見つかったスノードロップ。目立つ白黒の髪を無造作になびかせながら必死に森の中を駆け逃げる。


『囮たのんだぞ』


 送られてきた短い念話。それだけで彼女を焦らすのには十分であった。


 焚き火をお取りにしてスノードロップの操る死体とジギタリスの見えない毒による連続攻撃。スノードロップが聞いていたのはここまでだ。



「いたぞ!! あそこだ!」

「やばすぎるよおおおお」


 距離はまだまだある。だが、死体の魔物による妨害、さらにジギタリスの遠距離から行う毒ガスを織り交ぜた攻撃をしてもなお確実にその距離を狭めてくる。


 救いなのはまだ暴食の使徒が動いていないことだろう。スノードロップが魔物を通した視界で確認したところ空色の髪を持つ少女、【暴食の使徒】トーナ・バークラーは自身の座る椅子を運ばせる四人の騎士のみを残し優雅に肉料理を頬張っている。


「なんでこんな時にのんびり食べていられるのおおおおおお」


 強者の余裕を目の当たりにしたスノードロップであった。


〇〇〇


(どうしよっかねぇ)


 地中(・・)から騎士たちの様子を伺いつつジギタリスは策を考える。地面の振動から騎士の人数を把握し、ゆっくりと自分の作戦(・・)を遂行し、騎士全員を始末する算段を立て終えた彼女はそれでもなお、ただ一つ、懸念事項があった。


(使徒が動かねえ……何が目的だ……能力はなんだ……)


 そう、暴食の使徒が動かないのだ。いつになっても、護衛を二人だけ残し、ジギタリスとスノードロップの追い込みはすべて部下に任せきりだ。

 時折ジギタリスが地上に浮上し確認してみても、暴食の使徒はまるで自分たちのことは興味ないかのように暇そうにしている。


 いや、むしろ……


(なんで視線が騎士に向いてるんだ……)


 暴食の使徒の視線は常に動き回る騎士に向けられていた。ジギタリスは自分の作戦が完了するまでの間のんびりと考える。



〇〇〇


「カレ隊は右方を、マベ隊は左方に散れ。火は消え切っておらん。この近くにいるはずだ」


 火でも焚いていたのだろうか。森の中に燻っていた煙。うっすらとだが、それでも視認されたそれを騎士たちは見逃さない。


 目視された煙からその地点を囲むようにして包囲を始め、互いに魔法で合図を送りながら確実にその包囲を狭めてく。


 しかし、


「うむ?」


 狭めていったはずの包囲網。その中に目的の二人の子供はおらず騎士たちは互いに顔をみあわせ


「ヴァああぁアア」


 突如地面から湧き出てきた魔物の集団に襲われた。


 だがいずれの魔物も目に生命の色はない。すべてがすでに命尽きた屍の魔物である。


 スノードロップの固有魔法【死体操】


 だが、そんな不意打ちも使徒の部下である騎士たちには通じない。


「落ち着け! ただの死体だ! 我らだけでも対処は可能! 各自目の前の敵を撃破したのち、子供を探し出せ! この場所が見えるところにいるはずだ! 後列の部隊にも連絡をしろ!」


 タイミングのよすぎる奇襲。そのことから逆に子供たちはこの場所が見える位置にいるはずとの予想をたて、さらには的確に目の前の死体の魔物を行動不能にしていく騎士たち。


 一人、二人と魔物の死体の包囲を抜けていき、ある者は気配を、ある者は魔力を追い、死体を操った本人を探し出す。


「いたぞ! あそこだ!」


 一人の騎士が指をさす。その先には森の中でも目立つ白黒の髪の少女。だが、距離が遠く、森の木々の邪魔もあり弓も魔法も届かない。


 少女は見つかったことを悟ると森のさらに奥へと走り去る。


 だが、そこを焦って追いかけたりはしない。人数は多く、近くにいることも確認できたのだ。誘いの可能性も考えれば焦って攻撃を仕掛けるよりもゆっくり、確実に仕留めるために動いた方がいいと騎士を束ねる物は騎士長は判断した。


 そして丁度そこに、後ろに控えている使徒に連絡を終えた騎士が戻ってくる。


「使徒様はなんと?」

「はい、報告しましたところすぐに追いつくとのことです!」


 その報告を聞いて満足げな騎士長。いまだもう一人が見つからないことも含めて警戒を解くこともなく、目に見えない毒の霧も魔力を感知することで対処する。


 おそらくここまでは完璧な対応だっただろう。


 実際ジギタリスがスノードロップの送り出した死体の魔物に毒の霧をまぎらせていたのに騎士たちは全員がそれを回避しているのだ。村で一杯食わされた分、彼らは警戒を高め、確実に二人の少女をとらえるべく前進していた。


 ジギタリスの毒に対する措置は完璧だ。魔力で作られた毒である以上、ある程度の彼女の魔力が放出される毒には込められている。それを感知してしまえば濃度が薄くて視認はできなくとも感知はできる。


 スノードロップの死体を操る魔法も、彼らが冷静にさえなっていれば倒せない相手ではない。使徒の部下として強化も施されている彼らは戦闘において相手が孤児院の子供であろうと善戦するであろう。


 だが……


「各員止まれ、前方に不自然な魔力溜まりがある。毒の可能性も考慮し回り込め、その際、地中からの罠に気を付けろ」

「はっ!」


 全員が全員、前方に漂う魔力を感知するとそれを避けるようにして行動を開始、そしてそこに再び、地中から魔物の死骸による奇襲が行われる。


 だが、当然彼らは難なく対処する。


「ドマ隊、対処完了です」

「クラ隊も同じく」


 各々が無傷で対処しきる。だからと言って報告を受けた騎士長は油断せず、あたりを警戒しながら前進する。


 が、


「ん?」


 妙な違和感に襲われて騎士は立ち止まる。


「隊長? どうされましたか?」


 後ろについていた騎士達も立ち止まる。


「お前たち、何か匂わないか?」

「匂い……ですか? 特に何も……。森の中ですし何かの花粉じゃないですかね? 言われた通り毒と思われる魔力は避けているわけで……す……し」


 ばたり、と騎士の一人が倒れる。一人二人ではない。その数は瞬く間に見渡す限りの騎士が倒れていく。


 そして最初に違和感を覚えた騎士隊長もガクリと膝をつく。


「な、なぜだ……毒は避けて通ったはず……」



〇〇〇


「ジギちゃん……あとで絶対懲らしめるんだから!!」


 森の中を一人孤独に走り、逃げる少女スノードロップ。死体であるがゆえに疲れる、などということはないがそれでも心は焦る。

 なにせジギタリスからの連絡は一向に来ないからだ。作戦が失敗したことを伝えるわずかな念話の後再び地中に潜ったのか全く魔力をかんじられない。


 騎士たちを襲ったことは魔物を通して知ってはいても魔物が倒された後どうなったのかまでは彼女に知るすべはない。


 そんなわけでスノードロップはこの戦いが終わった後にジギタリスに報復することを決めたのだが……


「ん? あれ? 敵さんどこに行ったんだろう」


 必死に逃げ回っていたせいか、周りにはすでに人の気配はない。ひょっとして逃げ切ったのか、奇襲がうまくいったのか……とも一瞬考える彼女だったが相手は使徒、ということを思い返し油断はしないようにする。


 その時、モゴゴと地面が盛り上がり、紫髪の少女が現れる。


「ジギちゃん!」

「スノー、おつかれさまだぜ。とりあえずあいつらに毒をやっていだだだだだだだだだだ」

「お仕置きなんだから!」


 名前を呼び、そのままジギタリスに抱き着くスノー。そのまま状況を説明しようとしたジギタリスに万力のごときその腕力でジギタリスを締め上げる。彼女なりの愛情表現ともいえるがされるジギタリスとしては自業自得な面があるといってもたまったものではない。


 だが、戦闘が終わったわけではないことを思い出しスノードロップはその腕を解く。


「ぜえ、ぜえ、スノー……お前……」

「ジギちゃんがひどいんでしょ! っと、それよりも状況どうなってるの?」


 とりあえず話を戻すスノードロップ。呆れながらもジギタリスは説明する。


「とりあえずお前を追いかけてた奴らは毒で寝てもらったぜ。魔力を感知されたら避けられるってのは母様に口酸っぱく言われてたからな、その対策みたいなもんだ。その辺の草木から毒作って火焚いてばらまいてやったぜ」

「ほえ~」


 感心したようなスノードロップ。ジギタリスがやったのは魔力に頼らず、孫場である有り合わせな草木の組み合わせによる人体への有害な攻撃だ。もちろん、においに敏感な獣人などがいればこれも通じなかっただろうがそこは幸いしたらしい。


「だけどな」

「うん?」

「使徒の能力が全くわからねえ。クル姉様たちの話だったら全員何か一個は持ってるはずなんだがいまだに何も使わねえ。さっきまでだってずっと突っ立って見てるだけだった。なにかしてた感じはしねえ」


 思い返しながらジギタリスは暴食の使徒のことを考える。


「よし、じゃあ、私が今度は直接狙ってみる。ジギちゃんは手助けして」

「別にいいけどよ、気をつけろよ」

「うん。それじゃあ準備してくるね」


 そう言って、地面に手を当て、魔物の死骸を呼び起こすのであった。


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