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道に咲く華  作者: おの はるか
私たちは希望の道を諦めない
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森の逃亡編 骨剣王ワーリオプス


 節制の使徒と異世界勇者、チェリシュとマドルガータの悪魔喰い、そしてジギタリスとスノードロップの孤児院組。この三つの勢力が激突した森の戦い。


 それは異世界勇者が全員死に、節制の使徒も死に、悪魔喰いと孤児院の勝利と言える。


 だが、そのあと、協力関係でなくなったその両者が争うことはなかった。



 何故なら悪魔喰いの二人はマドルガータの師、シューク・ドルストンにより捕らえられたため、そして。



 孤児院の二人は正義の使徒に襲撃されたためだ。


〇〇〇


「ジギ~。機嫌なおしてよ~」

「……」

「ジギ~!」


 ジギタリスとスノードロップの二人。戦いが終わってから二人はずっとこの調子であった。それも当然、スノーの助け方が毎回毎回雑なせいだ。


 もっとも毎回毎回助けてもらっているジギタリスにも責任があるが。


 数十回に及ぶスノーの謝罪、そののちにようやくジギタリスがスノードロップを見据える。


「はぁ、もういいよ。次からはほんの少しでいいから手加減してくれ」

「うん! うん! 気を付ける!」

「ったくよ~」


 ぎゅっとスノードロップがジギタリスに抱き着く。嫌がる様子も見せずにジギタリスは対応する。


 その時だった。


「?!」

「!?」


 二人の全身は、殺気を感じ、足ががくがくと震えだす。スノードロップは死体であるためないが、ジギタリスは冷や汗をだらだらとかく。


 そして、二人の前に現れる、その元凶。


「正義の剣よ。答えなさい。彼らは悪か、それとも善か」


 それは日本人のようであった。見た目はジギタリスたちよりも一回りほど年上、ソルトと同い年か少し上だろう。肩に担いだ折れた大剣に質問しているようだ。


『白黒の髪を持つ者は死体。死してなお体を動かすもの。紫の髪を持つ者は毒を操りし者。過去に村一つの人間を皆殺しにした経験あり』


 そしてその剣から声が返ってくる。それを聞くと少女はうなずいた。


「そうか……つまり」


 そして肩に担ぎ、先ほどは質問までした剣を正面に構える。


「二人とも悪ね」


 正義を掲げる剣が二人に襲い掛かった。


〇〇〇


「逃げるぞ!!」


 ジギタリス・ファミーユ。十二歳。己が口にし毒と定義したものを分泌、操作する能力。、

 幼少時、毒キノコを誤って食べ、その成分分子を村中にばらまき死を振りまいたため国から追われる立場になったところをクルルシアに捕まった。


「わかってる!!」


 スノードロップ・ファミーユ。享年十二歳。動く死体。死体を操る固有魔法にて自身の体を操作することが可能。他の動植物の死体も操作可能だが人間の死体だけは触りたくないため操りたくない。動物や植物の死骸を操ることに対しての抵抗はなし。


 全力で正義の使徒から距離を取ろうとする孤児院の二人。だがいくら身体強化の魔法を体に施そうが体格の、その一歩の差が確実に距離を詰めてくる。


「ジギちゃん! あれは!?」


 あれ、とはジギタリスの固有魔法から作り出される【毒】のことだ。大抵の場合相手が何も考えずに突っ込んできたのであれば作り出した、見えない毒の霧で瞬殺できる。


 事実それで彼女は何人もの異世界勇者をすでに殺していた。


 だが。


「だめだ! もうやってるけどあいつ、どういうわけか効かねえ!」


 そう、正義の使徒、遠山銀奈は間違いなくジギタリスが逃げながら振りまいた毒の真っただ中を走ってきている。それにもかかわらず彼女はふらつくどころかまっすぐにジギタリスたちを追ってきていた。


「なら目くらまし!」

「分かってる!」


 スノードロップの指示を受け、ジギタリスは放出する毒を目に見えない濃度からはっきりと見える濃度にまで上げ、それを拡散した。

 視界を奪うためである。


 だが、それでも。


「神届物【我、正義の道を執行す】」


 そんな短い詠唱とともに、彼女が振り下ろした剣の風圧が毒霧を晴らしてしまうのであった。


「なんだよ……あれ……」

「わ、わからない。わからないよ!」


 二人を支配する感情は恐怖そのもの。二人が走るのをやめたと見て取った正義の使徒は歩を緩め一歩一歩確実にジギタリスたちに近づいていく。


「鬼ごっこは終わりです。わが剣の錆となれ。悪の子供たちよ」


 折れた大剣が怪しく光る。そして今まさに二人の少女に向かって振り下ろそうと……


「その手には乗りません」


 しなかった。地面から急にとびかかってきた死体を一刀のもとに切り裂く。


「ちっ、ならこれでもくらえ!」


 舌打ちと同時にジギタリスが投げたのは風の魔法に毒の粒子を注ぎ込んだもの。触るだけでそれは爆発し、周囲へと毒をばらまく


 はずだった。


「神届物【我、正義の道を執行す】」


 また、神届物。その能力は孤児院の二人にはまるで分らない。毒の霧を払い、死体の気配なき不意打ちを感知し、さらに毒入りの風の球すら消し飛ばしたその日本人の少女の前に二人の手は……


「ジギちゃん、ありがとう。準備できたよ」

「待ってたぜ。頼んだ!」


 とたんに、恐怖におびえていた顔が晴れスノードロップは逃げるのではなくあえて、前に一歩進み出る。


「私の声にこたえろ!! ワーリオプス!」


 少女が、さっきまでとは打って変わり大声でその名前を呼ぶ。


「させない!」


 正義の使徒が折れた剣で突き殺しに来るが……もう遅い。


 ガキン、とその攻撃は弾かれ、正義の使徒は宙に舞う。


「かっかっかっか。まさかいきなり呼ばれた上に使徒、それも正義の使徒と戦うことになるとはのう」


 正義の使徒の剣が弾かれた場所。そこにソルトの剣の師匠であり、同時に、今魔族を仕切る魔王の一人、ワーリオプスが骨で作った剣を構えて立っていた。


〇〇〇


「魔王!」


 弾かれ、しかしくるくると器用に舞い、地面に着地する正義の使徒、遠山銀奈。その目はまっすぐに魔王であるワーリオプスに注がれている。


 彼女の目的は魔族の殲滅、それに伴い人に仇なす勢力そのすべて。ゆえに悪魔喰いを狙う。ゆえに孤児院の子供たちを狙う。


 しかし、さらに優先するべき敵、魔王が目の前に現れたのであれば話は違ってくる。


「剣よ。確認する。あいつは魔王の一人で間違いないな?」

『まちがいない。十年前は魔王の幹部。その魔王が倒れてからは力を引き継ぎ、今も人々を苦しめる魔族を取り仕切る魔王となった骨の王なり』

「悪でいいか?」

『悪でよい』


 この問答の瞬間、彼女の目標は変わった。すでに銀奈の視界に孤児院の子供たちは映っていない。逃げたことは気付いているがそれを追いかけるようなこともしない。

 狙うはただ一人、魔王ワーリオプスのみ。


「かっかっかっか。いい殺気を放つではないか。骨なのに鳥肌が立つかと思ったわい」


 あくまで軽口をたたきながらワーリオプスは剣を構える。


 その瞬間、銀奈に対して段違いの気配の圧力がたたきつけられた。


「!?」

「かっかっかっか。ちびらんことにも気を失わないことにもほめてやろう。そして死なないことにもな。我の気配で立ち上がった者はいつ以来か。いやあ、お主のようなものと戦えるのは本当に嬉しいことじゃ。七百年この体で待ちわびたぞ。お主のようなつわものと戦えるのを。だがな」


 嬉しそうに、骨の体がガチャガチャと響く。笑っているのだ。強敵と戦えることに。


 しかしひとしきり笑うと、気配の圧力はそのままにワーリオプスの声音は変わる。


「だがな、あの子たちをいじめてくれた礼が先よな」


 瞬間風が吹く。来る、と銀奈は剣を構え、同時に十の剣劇が彼女の体を切り刻む。


「くっ!?」

「遅い、遅いのぉ。我の時代では生きていけんぞぉ。かっかっかっかっか」


 いったん距離をとる正義の使徒。だがそれは悪手であった。ワーリオプスの体が変化する。


 あばら骨のうち二本がそれぞれ第二の右手、左手へと姿を変えたのであった。


「次は何撃放てるかのぅ。かっかっかっか」


 骨でできた腕、骨でできた剣。そして骨でできた鎧。そのいずれもが鉄壁であり、鉾であった。


「くっ……」


 苦悶の声を交えながら遠山銀奈は立ち上がる。先ほどの斬撃は皮一つのところでなんとかよけきれた。しかし、このまま腕が増え続けていくのであれば、また、先ほどの攻撃がまだ本気でないとすればこのままでは負けるのは自分。


「仕方ない。おい、もっと力を貸せ。私に正義を任せろ」

『了解』


 数日後、森が無くなったことだけは確認ができたのであった。

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