王国軍脱出編 合流
「くっくっく……などと笑っておれんな。まさかここまで倒されるとはな」
「ふう、そろそろいいかな」
憎々しげにつぶやく【傲慢の使徒】の前に悠々と立つ少女。
プレアは数分の間に部屋に押し入ってきた兵士をナイフ一本で片っ端から戦闘不能にしていったのであった。あるものは首を突かれ、ある者は足の腱を切られ、またあるものは目を潰されて。
「さあ、いかがでしたか? 私の舞踏は? そろそろお開きの時間ですよ」
優雅に、返り血一つ浴びていない衣服をはためかせプレアは優雅に礼をする。
「逃がすと思っていて?!」
希望の使徒が魔法を放つ。重力が歪んでいる空間においても炎と風の魔法はまっすぐにプレアの方へ飛んでいく。
が、
「対象、騎士の皆さん。命令【壁になって】」
その一言で先ほどまでプレアと戦闘をしていた兵士たちは瞬く間に、彼女を守るように方陣を形成。飛んできた魔法をすべてその身で受け止める。
当然一人や二人では炭になるのがおちだが十人二十人と壁になった兵士たちは流石に使徒とはいえプレア一人を狙った魔法で突破できる魔法ではなかった。
「なら、これはどうです!」
希望の使徒が、さらに大きく、人など含んだ瞬間に蒸発させることができる炎を生み出す。これならばいくら壁を張ったところで関係はない。
「いえいえ、私はこれにて失礼。私の仕事はこれであと一つを残すのみ」
そういうとプレアは迫りくる炎など無視して視線を別のところへとやる。
重力の影響で動けないシューク・ドルストンの方向へ。
「対象、シューク・ドルストン。命令」
「?! なにを――」
「【一緒に来なさい】」
スークが抵抗する暇はなかった。いうが早いか、行動するがはやいか。次の瞬間にはプレアは窓から飛び降りる。そしてシュークの体も勝手についていこうとする。
「逃がすな!! 弓兵共! 必ず仕留めろ!」
傲慢の使徒が叫ぶ。だがいくら兵士たちを操作しようとしても腱を切られた兵士たちが立ち上がることはかなわない。
直接の戦闘能力を持たない傲慢の使徒はシュークが窓から飛び降りるのを見ていることしかできなかった。
〇〇〇
「お前! 早く拘束を解け!」
「うーんとですね。命令【静かにしてろ】。あ、【聞かれたことには答えろ】」
風の魔法で着地し、そのまま走って王国軍の本部から逃走を図るプレア。シュークも一定の距離を測りつつそれを追いかける。
そして、その逃走の中でシュークの口はプレアの神届物によって閉ざされたのであった。
追いかけてくる兵士を魔法で撃退しながら、それができない敵には神届物を用いながら彼女は目的地点まで突っ切っていく。
だがその目的地はシュークに知らされていない。ただもくもくとプレアの後ろを勝手に走らされているだけだ。
「疑問に思ってるだろうけどもう少し待ってくださいね。まだここは敵地の真っただ中。のんびり雑談をする時間はありませんので。ああ、それと安心してください。こちらの動きがうまくいっていればマドルガータは救出できていますので」
「?!」
離すことはできないが驚きがシュークの頭を支配する。生前の、地球にいたころの弟子のことを思い出す。そして同時に、この世界で再び見つけることができた少女のことを。
「ああ、静かすぎても詰まりませんね。【いいですよ。喋っても】」
「俺をどうするつもりだ」
「いきなりその質問ですか……まあ、妥当かな。よし、道すがら話しましょう」
走る速度を緩め、周りを警戒しながらもプレアはシュークに話始める。
「おたくのよくご存じマドルガータさんが悪魔喰いにいるのは知ってますね」
「当り前だ。どこの誰がたぶらかしてくれたんだか」
怒ったような口ぶりでプレアをにらみつけるシューク。彼女の地球での性格を知っている彼としてはどうして人と対立する魔族に手を貸すのかがわからないのだ。
「たぶらかすだなんてそんな。そもそも悪魔喰いは彼女が立案した組織ですし」
「なに?」
予想外の返答に驚くシューク。
「そうですよね、やっぱりしらないですよね……。ではそもそも悪魔喰いの目的から話しましょう。あなたには知っておいてもらわねばなりませんので」
「俺が?」
「はい、前世でマドルガータの父であり師であったあなたにはぜひ。まあ、わたしとしてはとっととソーちゃんにも伝えたいのですが」
弟のことを思いながらプレアは話すのであった。
〇〇〇
「そもそもですね。悪魔喰いというのは魔族に味方する組織ではありません。人に味方しないのは言うまでもないですが」
「どういうことだ?」
「知っているか知りませんが私たち悪魔喰いは全員生まれ育った故郷を滅ぼされています。ガダバナートスなどというやつらによって」
朝日が昇り始め、暗かった森が少しずつ明るさを取り戻していく。その木々の中を二人はまっすぐに進んでいく。
「それで? どうしてそんな境遇の子供たちが集まれたんだ」
「集まれたんじゃありません。集められたんです。私も弟を逃がした後につかまりました」
心底いやそうに、しかし弟のことを話す時だけ明るい笑顔になる少女プレア。シュークは自身が誘拐に近いことをされていることすら一瞬忘れ質問を重ねる。
「それが……ソルト君か?」
「はい! っと、そうじゃないそうじゃない。話がそれました。閑話休題です。私たちはガダバナートスという神の使いに拘束。なんとか逃げ出したものの私たちには頼るべき存在が皆殺しにされていてどうしようもなかった。でもマドルが唯一魔王との接点があったんです」
「マドルガータがその時点で?」
「はい、彼女はこの世界でも捨て子。そこを魔王の部下に拾われ孤児院で育てられました。その孤児院は襲撃でなくなってしまいましたが……それでもその縁は無くなりません。私たちは魔族に肩入れし、魔王の復活をさせるために活動を開始しました。もっとも魔王復活は私の個人的な話ですが」
「個人的な?」
「ええ。魔族の側についた、と言っても別に精鋭部隊として活動しろとは言われてませんしね」
ようやく目的地が見えてきたのか速度を緩めるプレア。
「悪魔喰いには二つの活動目標がありました。一つは魔族と人の戦争を終わらせること。もう一つは魔王を復活させること」
「それはさっきも聞い……まて、魔族が人に勝つことじゃないのか」
「違います。そしてそれぞれを別の言い方で言うならば魔族と人の婚姻を認めさせること、私の弟の母親を生き返らせること」
「それは……まさか……」
「それが悪魔喰いの全てです。別に神様たちの戦いとか知りません。私たちはここで、この世界で今度こそ幸せになりたかった。ただそれだけです」
二人は目的地に着いた。森の木々を少しだけ切り出して作った小さな広場のような空間。
「魔王の復活は正義の使徒に邪魔されたせいで達成は厳しいですがね……あれ?」
その場にいたのは先に逃げた悪魔喰いが三人。張ってあるテントの中から二人。合わせて五人。
だからプレアは疑問に思う。
すでに死んだ二人の悪魔喰いヴァンとミネルヴァ。そして自分自身を除けばこの場には七人いなければならないはずだ。彼女はこの場にいない悪魔喰いを確認する。
「あの……ナイルにサクラスは?」
その声にこたえたのは獣人の悪魔喰いアクア。悪魔の目を発動させているのか目が怪しく光る。
「ナイルは信仰の使徒を足止めにした。いまだに戦闘は継続中」
「サクラスは?」
嫌な予感に苛まれながらもプレアは問う。
「チェリシュとマドルガータを逃がすために博愛の使徒と交戦。死亡を確認した」




