戦争介入編 予定変更
「聖剣を見せる? ホントに貴方たちは何が狙いで動いているの?」
その真意を測りきれずにシャルはナイルに問う。だが、ナイルは答えない。
「秘密だし言えないわ~。だけどあなたに拒否権はないのでは無くて? 別にいいと思うのだけれど。奪おうとか考えてるわけじゃないのだし」
「信用できないってことよ」
「あらあら~、それは残念ね~。なら力ずくになるのかしら?」
「くっ……」
気を失っているラディンとダンダリオンを考えるとシャルは何も言えなくなる。たが、それでも決断しきれない。
今、聖剣はシャルの体の中に封印している。出す出さないはシャルの自由でできるが出した瞬間に奪われたなどとあっては取り返しがつかない。
封印することに特化させるため、二十年前の異世界勇者の力のほとんどをつぎ込んだ聖剣。魔王が復活しないという情報が悪魔喰いからもたらされたものでしかないため確信には至っていない。仮にそれが嘘であれば破壊するだけで魔王復活は叶う。
シャルは迷う。だが、ここで見せずに闘うとしても明らかに格上の相手が一人、能力もよく分からない相手も一人。アジアンタムと一緒でも勝てる相手とは思えなかった。
その時、
どさっ、と何かが落ちる音がした。だがすぐ近くではないらしく目視はできない。
「ん? アクア、今何か落ちてきたか確認して貰える?」
「了解。【悪魔の目】発動……っ!?」
アクアの目が妖しく光る。恐らく千里眼の類なのだろう。落ちた方向をアクアは見て……そして驚愕に目を見開いた。
「ナイル、予測二が正解」
「あらあら~、そっちなのね。てことは玉砕を決めたということ……」
悪魔喰いがシャル達には理解できない話をする。だが、その会話は吸血鬼の少女には届かない。
「この魔力……ソルト!?」
漂ってくる魔力から落ちてきたものを判断するシャル。それは間違いなくソルトの魔力であり、そして、ついさっきまで同行していた時とは明らかに別物であった。
「丁度良いわ~。シャルちゃ~ん、聖剣見せてくれないとあの子、殺しちゃうわよ~」
「!?」
当たり前のことを聞かされて焦るシャル。彼女は遂に断念して聖剣を出す。
シャルが念じて、ほぼ時間差なく彼女の手に黄金の剣が現れる。魔王ですら切られたらその部位が封印されていく最強の封印剣。
「ふうん……いいわ、ありがとうね~、もう十分よ。ソルト君を助けてあげなさいな~」
「え……?」
呆気に取られるシャル。力ずくで奪われることも考えていた彼女はあっさりと自分たちを見逃す旨の発言をしたナイルに対して戸惑いを返せない。
だが、我に返ると急いで他の気を失っている人員とアジアンタムを担ぎ急いでソルトの元へ向かうのであった。
「ナイル、いいの?」
「無茶言わないの。あなたもう一週間も寝てないでしょ~。それにさっき龍の倒すのに何回神届物を使ったのかしら? 今日は休んで頂戴な~。あれは私が引き受けるから」
そう言ってナイルは後ろを振り返る。
「気づかれておりましたか」
さっきまで誰もいなかった空間に一人の老人が現れる。
「【悪魔の脳】に空間認知阻害なんて効かないわよ~。信仰の使徒様」
「ほほう……そこまで……流石と言っておきましょうか」
そう言って老人は服の中に手を入れる。その隙にナイルはアクアに耳打ちをする。
「アクア、速く逃げなさい。神届物の使用回数はもう超えてるはずよ。テイルとセーラを連れて逃げて。別に私ならやられはしないわ」
〇〇〇
「ソル……ト?」
「ソル兄様?」
魔力の漂ってくる場所を頼りにシャルとアジアンタムは目的の場所に辿り着く。
だが、見つけた彼の様子は明らかに異常であった。
荒々しい呼吸がすぐ近くによると聞こえてくる。だが、目立った外傷もない。しかし意識も全く内容でシャルがそばに近寄っても何も反応を示さない。
そして、もっとも異常なこと。
彼の背から、人には絶対にない部位があった。
「これは……羽?」
まるで天使か、それとも悪魔か、神話の世界の住人が持つ神々しい羽を彼は背中にはやしていた。
「ぐ、うううあああああ」
「ソルト?! タムちゃん! 二人をよろしく!」
「は、はい!」
うなり始めたソルトを見て担いでいたラディンとダンダリオンをアジアンタムに預けるとシャルは急いでソルトの体を調べ始める。見たこともないソルトの異変にシャルは戸惑う。だが、すぐにその原因を知る。
「これは……魔力が暴走しているの?」
「シャルさん……ソル兄様はどうしたの……?」
気を失っている二人を横にしてきたアジアンタムもシャルの隣で不安そうにする。
「わからない。でもとりあえずは……」
暴走した魔力を安定させるためにシャルは行動を開始するのであった。




