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道に咲く華  作者: おの はるか
我、戦乱の道を切り開く
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戦闘介入編 悪魔の力

「はあ……はあ……」


 槍で貫かれ、そのまま引き抜かれるシャル。流れ出る血を制御して傷をふさぎにかかる。


「全く……面倒なちか――」

「残念だけどその手には乗らない」


 瞬間、目の前にいた悪魔喰いの少年テイルが消える。じゃりっと地面を踏む音がシャルの後ろから聞こえてきたかと思えば振り向く間もなく彼女の背に再び槍が刺さる。


「が……あ……」

「幻惑の魔法かな? それともおしゃべりによる時間稼ぎかな? 残念だけど君がかなりの魔法の使い手だということは知っているし、血を操作することによって傷を治癒することができるのも知っている」


 ぼたぼたと、槍が抜かれた個所からシャルの血が流れ落ちる。が、その血は地面に落ちる前に浮き上がり再びシャルの体内へと流れていく。


「あら残念。武器も綺麗に血払いまでしてくれちゃって」


 苦しそうな表情から一転して、シャルの表情には余裕が戻る。傷はすでにふさがり、手には血で形作られた鞭のようなものが握られている。


「武器に付着している血ですら武器にするっていうのはもうアクアから聞いていたからね。対策は悪魔喰い全員に共有済みさ。しかし、その異常な再生力は流石吸血鬼といったところか。でも……これならどうだ?」


 そう言いながら槍をいくつか振り回し、今度は真正面から突きの姿勢を取るテイル。


「【悪魔の足】解放」


 テイルの姿が歪む。風を通り越し、一つの衝撃波を伴ってシャルに向かって突進する。


「?! 【黒繭】!」


 先ほどまでのただの刺突とは違うと本能的に判断し、シャルは即座に使える魔法で一番防御に特化した魔法を使う。


「がはっ!?」


 黒繭の黒い結界を突き破りテイルの槍はシャルの腹部を貫く。だが、それだけにとどまらず、そのまま周りにまとった結界ごと白い壁まで吹き飛ばされる。


「残念、今の一撃で終わらすつもりだたんだけどね。うん、確かに過小評価していたらしい。これで殺せないとは思わなかった」


 突きの威力を殺しきれず、自身で作り出した結界の中で衝撃に襲われ、シャルは空気を吐き出す。なんとか結界【黒繭】だけは保つがテイルの言葉は耳に入ってこない。


「返事がない……か、なら畳みかけるだけだ」


 そして再びテイルは突きの構えを見せる。


〇〇〇


「シャルさん!?」


 もう一人の悪魔喰いから放たれる魔力の弾をはじきながら、アジアンタムは横目でシャルが【黒繭】ごと弾き飛ばされるのを目撃し、走り寄ろうとする。


「さ~せないぞ~!」


 アジアンタムの進もうとした方向に弾幕が張られ、視覚どころか五感全てを爆風で奪う。アジアンタムの魔法は全てを弾くことができるが全てを無効化しても音がなければ、視覚が奪われれば、悪魔喰いの目の前で下手に動くことはできない。


「くっ! 伸びろ!」


 だが、それでも止まるわけにはいかない。大体の場所に検討をつけ、彼女は自身の持つ蛇腹剣を限界まで伸ばす。するとそれまで彼女の身長の半分ほどだった剣が彼女の二倍、三倍と伸びていき、やがて後方で戦っていたテイルの槍に巻き付く。


「おっと、セーラは何をやってるんだか」


 手に持つ槍に巻き付いた剣を見ながら大した動揺も見せずに再びシャルの方を見やり地面を踏み込む。巻き付き、動きを阻害しているはずの剣などお構いなしに【悪魔の足】を発動させる。この程度は自分の足の前では障害になりえないと判断して。

 テイルの足は怪しく光り地面に暴虐的な力が加えられ大きくひび割れ、先ほどと同じように衝撃波を伴って突進を開始するテイル。


「させるかぁ!」


 シャルに対して追撃を仕掛けようとしたテイル。それを阻むようにしてアジアンタムの武器も怪しく光る。


「【魔転外装】! 反爆剣」

「なんだ?!」


 直後、爆発。場所はまさに槍に絡みついていた剣の位置。明らかに衝撃をはじき返した、などとは違う原理のものだ。


「テイル!」


 もう一人の悪魔喰い、セーラがテイルを案じたように声を上げる。だが、返事はない。


「テイル?! テイルうう!」


 半狂乱になりながら少女は自身の思い人の名を口にする。そしてその隙を逃がす孤児院の子供はいない。


「死ね!」


 アジアンタムは、そんな物騒なことを言いながら先ほどまで、テイルの槍を拘束していた蛇腹剣を今度は少女に向けて伸ばす。今度は拘束するのではなく突き刺すつもりで剣を伸ばす。


 が、それは成功しなかった。爆発で発生した煙の中から槍が投擲されアジアンタムの剣からセーラを守る。


「な?!」


 それに驚いたのはアジアンタム。あの爆発の中でテイルが生きていて剣に対して正確に槍を投擲したことに驚いた……わけではない。


 彼女の固有魔法は【己の体に触れたもの、ぶつかったものを弾く】という単純なもの。だが、その『己の体』の定義は自身の持っている武器や来ている服にも反映される。そのため先ほどのように持っている剣を伸ばして攻撃すると相手が掴まない限り動きを阻害されることはない。


 だから本来、今のように槍を投擲し、ぶつけたところでアジアンタムの蛇腹剣が進むのを止められない。その槍があらぬ方向へ弾かれるだけで、アジアンタムの剣はそのまま直進し、目標であるセーラという悪魔喰いを貫いたはずなのだ。


 だが、結果は違った。アジアンタムの剣は弾かれ、同時に投擲されたテイルの槍もあらぬ方向へと弾かれるというものであった。


「どういう……ことなの……」


 今までに経験したことのない事態にアジアンタムの思考が止まる。その隙をついて今度は先ほどまで半狂乱で「テイル」と予備叫んでいた少女が両手の銃の照準をアジアンタムに合わせる。


「ごめんあそばせ」


 まばゆく輝く魔力の弾がアジアンタム目掛けて発射された。動揺したアジアンタムに自慢の固有魔法を使う余裕はない。


 これで終わり、と悪魔喰いの二人はともにそう考えた。


 その時だった。



「土魔法! 泥の巨人!」



 ぬっ、と喰う案を取り囲む白い壁がない地面から泥がもこもこと集まりだし、瞬時に形ある巨人へと形を変えていく。その大きさはその場にいる四人全員の身長を足したものよりも優に大きく、


 そして、とんできた魔力の弾を受け止めるには十分だった。


「タムちゃん!」


 遠くから、アジアンタムのことを案じるシャルの声が響く。その声に冷静さを取り戻したアジアンタムは「無事です!」と返事をするとともに急いで合流するために動き始める。


 悪魔喰いの二人はその行動を邪魔しようとするが泥でできた巨人の腕が魔力で作った弾丸も突進するテイルも受け止める。


「シャルさん!」

「よかった! 無事だった!」


 シャルが吹き飛ばされたであろう走っていくアジアンタム。すると向こうからも走ってくる影が見える。そしてシャルも、アジアンタムも、お互いが確認できたところで安堵の表情を浮かべのであった。


「タムちゃん、とりあえず怪我はないね? まだ戦える?」

「うん! 大丈――」


「神届物【君は(テュ・)(ヌ・)から(プゥラ・)逃げ(パ・)られ(ム・)ない(フュイィル)】」


 大丈夫、と返事しかけたところでシャルは神届物の発動のための音声を耳で聴きとる。声がしたのは自身が作り出した泥の人形が動いている場所。


 気になったシャルはアジアンタムを抱きしめつつ、即座にどの方向にも動けるようにしてから視線をそちらに移す。


「何……あれ……」


 泥に絡めとられ、完全に動きが停止したはずの魔力の光弾が再び加速して、泥の人形を突き破り、シャルたちがいる方向へと飛んでくるのであった。



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