戦争介入編 【逆境を鎮める刀】
まばゆい光が孤児院から出発した人員の視界を塗りつぶす。遠い場所にいる悪魔喰いの面々から光が照射されているのではなくシャルたちの体を光が包んでいるのだろう。
そして、彼女たちが視界を取り戻した時、視界は一変していた。
「ここは……どこ?」
目を覚ましたシャルの視界は白い壁に閉ざされていた。前後左右、そして上までもが白く巨大な壁によっておおわれている。
いや、完全な無地の白ではない。そこには模様が二つ。
【Ⅴ】【Ⅷ】
「むにゃ? シャルさん?」
シャルの手につかまっていたアジアンタムも意識を取り戻すとあたりを見回した後首をかしげる。
「あれ? さっきまで草原だった気がするのですけどここは?」
あたり入り面が白い壁に覆われており、それ以外の情報はなし。シャルも説明するすべを持たないためあたりの情報を探るしかない。
だが、
「ようこそ! ここは番号鍵箱。私たちを倒さない限りは出れないよ」
「シャルさん。あなたが所持していると思われる聖剣を渡してくれたら出してあげるかもしれません」
「あなたたちは……確か王都で……」
突如、何の前触れもなくその場に一組の男女が現れる。その顔はシャルの記憶にうっすらと残っている程度のもの。
「だよね~。忘れてるよね~。だまし討ちで倒した相手のことなんかね~」
嫌味たっぷりに少女の方が文句を言う。そしてその内容でシャルは相手がだれかを思い出す。
「あっさりと倒せた悪魔喰い!」
「うっさいわ!」
「こらこら、おちついて」
シャルの物言いに切れた少女を隣の青年がたしなめる。
「シャルさん、こいつら誰ですか?」
蛇腹剣を抜き、いつでも切りかかれるように準備するアジアンタム。
「私たちが王都で少し会ったの。名前は確か……」
「確か?」
アジアンタムは言葉の先を待つが出てこない。そしてついに、
「セーラ・アミルタ! 二度と忘れんな!」
「テイル・ゲスト。あ、でも僕のことは覚えなくていいからね」
切れた少女の右手と左手に金と銀の銃が現れる。少年の方も槍を召喚し臨戦態勢に映ったようだ。
「【悪魔の魔力】! 全力開放!」
直後、二丁拳銃が火を噴いた。
〇〇〇
「悪魔の魔力?!」
「シャルさん! 私が!」
セーラの持つ二丁拳銃から放たれる魔力の光弾、それをアジアンタムが【全てをはじく】魔法をかけた剣で弾いていく。
「流石ね……」
夥しい量に関係なく、質量にも関係なく、ぶつかってきた物体をはじいていく魔法。色とりどりの魔法がシャルとアジアンタムを狙うがそのすべてを弾き飛ばす。
だが、無限に飛んでくる光弾のせいでアジアンタムは動くことはできない。
「でもシャルさん! 来ます!」
「わかってる!」
「へぇ、見えたのかい」
瞬間、アジアンタムの上から降ってきた槍をシャルは氷の柱で彼女の上を包むように展開し受け止める。
槍の持ち主はもう一人の悪魔喰い、テイル・ゲスト。白銀に輝く槍を持って上空から跳躍してきたのであった。
槍の攻撃を受け止め、テイルの動きを止めたシャルは追撃をかけようとする。が、新たに生成した氷が槍の持ち主に到着する前に彼はすでにその場から消える。
「速い?!」
高速で、吸血鬼のシャルの視力をもってしてもギリギリ追えるほどの速さで空中、地上を動き回るテイル。一回、二回と地面を蹴るたびにその速度は上がっていく。
「その速度……神届物……違う! 足か!?」
「ご名答。僕の持っているのは【悪魔の足】。ここまで速度が上がればこうして――」
「っ?!」
口上の途中でテイルの姿が消える。直後シャルの背中に痛みが走る。
「瞬間移動さながら、敵の後ろを取ることも簡単だ」
突き刺した槍を引き抜きながらテイルは笑う。
〇〇〇
「私の相手は~誰ですか~」
別の場所、同じく白い壁に囲まれた空間にのんびりとした少女の声が響く。
「ダン君、大丈夫ですか」
「な、なんとか……」
その空間に閉じ込められたのはダンダリオン、そしてラディンであった。
のんびりとした声が響く。
「ほ~ほ~ほ~ほ~、私の相手は獣人の男の子に知恵の使徒、我ながらなかなかな大役をひいちゃったものですね~」
「悪魔喰い……」
「はい、正解です。悪魔喰いです~。ナイル・パウラムと申します~。以後お見知りおきを~」
回転する刃を左手に持ったまま優雅に礼をするのであった。
「その武器は……『因果公平』の……」
「はぁい、おそらくそれで正解ですよ~。神届技【逆境を鎮める刀】。その能力の一つ。同じ程度の実力を持った相手同士を一つの空間に閉じ込めるって能力です~。まあ、これといって私が有利になるわけじゃないんですけどね~。ま、不利にはなりませんけど」
「ならなんでこんな状況を……」
この状況を作ったはずなのに不可解な言動をとるナイルにラディンはいぶかし気に手にもつ長槍を構え、隣にいたダンダリオンも体の一部を獣化させていく。
「なんででしょうね~」
そしてナイルは距離を詰める。
〇〇〇
「龍殺し……悪くない……」
雷をまとう龍の前に長身の少女は一人立つ。
『汝はたしか……アクアだったか。その猫の耳に長い尾は王都でチラリと見た記憶はするな』
ジャヌは自身の前に立ち塞がる少女の名前を確認する。彼女の言う通り、アクアの頭部からは猫の耳がぴくぴくとせわしなく動き、尻尾もワンピース状の服の下から覗いており、獣人であることを強く主張している。
「そう、龍にまで名前を覚えてもらえてうれしいわ」
嫌味なのか、本当にうれしいのか、感情を感じさせない声であくまで彼女は機械的に答える。
そして同時に、腰に差していた二本の独特の形状を持った剣を構える。
一本は鋭く、動物の牙をかたどったかのような、異世界人たちが見ればおそらく剣とレイピアの中間と言いそうなもの。
そしてもう一本は刀身の、まさに刃と峰の部分に虫食い状に穴が開き、さらに先端が小さく二本に分かれた剣。
どちらもまるで闇のようにどす黒い色を発しており、ジャヌは一目見るなり警戒心を増す。
『そんなものよくぞ作れたな』
「御託はいい。アクア・パーラ。参る」
腰まである長髪。その髪色の茶だけがアクアが通った過去の閃光となってジャヌの視界から彼女は消える。




