戦争介入編 悪魔たち
『おい! 全員聞け! 地面に墜落するぞ!』
「衝撃を和らげよ! 風魔法【風の綿】!」
落下していく龍の体を感じ取りつつシャルは衝撃を殺すべくジャヌの巨体を風で包み込む。直後【黒繭】の下面が地面にぶつかりひびが入りはじめる。
ガガガガという振動が響いたかと思えば数舜後には割れ、外から魔力の塊が飛んでくる。
「全員! 光弾に気を付けろ!」
ソルトの警戒を呼びかける声。各々が武器を構え質量をもった魔力を弾く。
赤の、青の、紫の、緑の、色とりどりの光弾が空から降りかかる。
黄の、橙の、白の、桃の、色とりどりの光弾が横から飛んでくる。
「固有魔法【魔転外装】!」
アジアンタムは固有魔法を発動し、振り回した蛇腹剣に触れた光弾を弾き飛ばす。
「奥義【骨断】」
ソルトは刀で両断する。
「ラディンさん! ダン君! こっちへ! 護れ【血球】」
シャルは手首を切り、そこから流れ出た血で三人を守る球体を作る。彼女が持つ最強の護りの魔法。血でつくるため少人数でないと守り切れないが、逆に守り切れるのであれば先ほどの【黒繭】とは比較にならないほどの強度を誇る。
『効かぬわ!!』
そしてジャヌは龍の巨体でひたすら殴っていた。
時間にして数秒だろう。一斉に襲い掛かってきた夥しい量の光弾をさばききることにソルトたちは成功する。
だが、更なる危機が降りかかる。
ズキリ、とソルトは胸の痛みで敵意を向けられたことを感知する。
「なんだ? どこからだ?」
普段なら悪意を感知してもどの程度の場所かわかるソルトだったが遠すぎるためなのか方向しかわからない。
だが、感知に長けているジャヌは方向だけでなく、その悪意を発信した人物もその目的も察したらしい。
『ソルトよ。お前は先に行け』
「え?」
ソルトが疑問に思う時間はなかった。いや、あったとしてもそれはもう後の祭りであった。
ジャヌは龍の腕でソルトの服を摘まむ。
そして、投げられた。夜もまだ明けないくらい空の中、ソルトの体はまっすぐ、彼らがもともと目指していた魔王軍の駐屯地へと飛んでいく。
「なんでだよおおおおおおおおお」
龍の膂力で、地上からわずかに目で終える速度でソルトは暗い夜空を飛んでいく。その方向は魔王軍が控えている陣営であった。
「ジャヌさん?! なにしてるの!?」
血で作った球体で魔力弾の攻撃をしのぎ切ったシャルが血を体の中に戻していると、ジャヌのその突然の行動に目を丸くする。
『今お主らがやらねばならんのは戦争を止めることであろう。ここで足止めを食らうわけにはいかん』
「足止め? 一体だれが」
『悪魔喰いじゃ』
その一言でシャルは事態を把握する。先ほどまでの光弾も悪魔喰いのものと仮定する。
「じゃあ私も――」
『魔王軍のところまで飛ばせと? すまんがそれはできそうにない』
「なんで……」
『吾だけであやつらは止められそうにないのでな』
平原にたたずむ四人の男女をにらみつける龍であった。
〇〇〇
「痛たた……ダン君大丈夫?」
一方シャルが血の結界を解いた場所で、同じ結界に守られていたラディンはダンダリオンの身を案じる。
「だ、大丈夫です……ラディンさんは?」
打ち付けた腰をさすりながらダンダリオンがのんきに答える。だが、それを聞いたラディンの声は安心したものではなかった。
「私も大丈夫。魔力弾自体はシャルさんが防いでくれたから。それより大丈夫なら戦闘態勢
を整えて」
「ん? なにが……」
「敵が動くよ!」
〇〇〇
一方で投げ飛ばされるソルトを見て驚いたのは悪魔喰いの面々も同じであった。
「あら、計算外ね~。まあいいわ。リナさんたちだったらソルト君一人くらい問題ないでしょう」
「ええ~。いいの? ここで足止めしないと戦争がはじまるの遅れるんじゃなかったの?」
余裕に空飛ぶソルトを見送るナイルに対して、不満げな少女セーラ。金の銃と銀の銃を両手に構えいつでも魔力の弾を打ち込めるようにする。
「セーラ。やめなさい。ナイルがいいと言ったらいい。」
だが、その行動をナイルの隣にいた長身の少女アクアが止める。
「私たちの第一目的は聖剣の奪取。そもそもそれがかなわないのであればソルト君を止めるのは無駄です。彼を止めたとしても無駄です」
「本音を言えばソルト君も止めておきたかったけれどね~」
「魔王のあの人たちがどう行動するかが読めないしね。【悪魔の目】で確認できるのはソルト君を除けば四人、それと龍が一匹。クルルシアの影はなし。で、準備は整った?」
アクアが隣に立っていたナイルに問う。聞かれた少女はその答えの代わりに神届物の名前を叫ぶ。
「神届物逆境を鎮める刀・第三形態・等しい力比べ、発動」
〇〇〇
「なに? 何が来るの?!」
自身の魔法の射程外。それほど離れている距離であっても感じ取れる神届物発動の気配にシャルは全身の警戒を最大まで上げる。
だが、そのことばかりに集中してもいられない。色とりどりの弾丸が彼女たち目掛けて数百数千と襲い掛かる。
『シャル! かがめ!』
間髪入れずにジャヌの巨体がシャルに覆いかぶさるように動き、光弾から彼女を守る。
「ジャヌさん!」
『吾のことは気に掛けるな! それよりアジアンタムを頼む!』
シャルが神届者の発動を感知したように、ジャヌもまたそれを感知していたのだ。
実際に、ナイルが刀を回転させ始めてからじわじわとシャル達の視界も白に染まり始めている。攻撃を仕掛けようにも悪魔喰いの面々がいるのはシャルの魔法の射程外。
ジャヌの指摘を受け、はっとするシャル。とっさに周囲の気配を探りアジアンタムの居場所を特定する。
「そこ!」
視界が白く染まっていく中アジアンタムの場所をシャルは特定し、その方向に走る。そして視界が白に染まり切る前にアジアンタムの手を握る。
「シャルさん!?」
「じっとしてて!」
アジアンタムの驚いの声が響くがシャルたちはそれに気にかける余裕はなかった。
直後、全員の視界が完全に白く染まる。




