孤児院結集編 クルルシアの容態
「まだ目を覚まさないか」
「だめ。心を閉じてる。外的要因に全く反応してくれない」
深刻な空気が流れる。この場にいるのはソルト。そして彼の義妹エーデルワイス。
そしてベッドに横たわるのは彼らの義姉。クルルシア。悪夢を見ているのかうなされながらかなりの汗をかいている。
セタリアが死んで三日、クルルシアはずっとこの調子であった。いろいろな義弟、義妹が交代で、それぞれの能力で干渉しているが一向に目が覚める気配はない。
「そうなると……ディアの力で干渉するしかないか」
「あれ、まだ未熟なんじゃ……」
「仕方ないだろ。他の案はもうやりつくした」
この三日、ソルトたちはあらゆる手段を尽くして彼女の容態の改善に努めた。孤児院の秘薬。それぞれの固有魔法。ありとあやゆる手段を用いた。
しかし、クルルシアが目覚めることを拒否しているのか、全く事態は動かなかった。
「でもだからって……ディアの力だと二人とも戻ってこれないかもしれないんだよ」
不安そうな表情でソルトの顔をうかがうエーデルワイス。だが、ソルトの表情は変わらない。
「大丈夫。帰ってくるから。ディアを呼んできてくれ」
「わ、わかった」
とてとてと、しかし納得のいかない表情でエーデルワイスが部屋の外に出ていき……数分後、別の少女が部屋にやってくる。
「そるにい? よんだ?」
「ああ、呼んだよ。ディア」
部屋にやってきたのは灰色の髪の少女。名前はブバルディア。他の孤児院の子供からは愛称もかねてディアと呼ばれている少女だ。
そしてソルトがこの少女をクルルシアの部屋に呼び寄せたのはこの状況を改善する唯一残されていると思われる手段だからだ。
「ディア、お前の固有魔法で俺とクル姉を繋げ」
「え、やだよ」
即答であった。
〇〇〇
「だから、なんかいもいってるじゃん。あたいのまほう、【ユメセカイ】でしょ? あぶないよ。あぶなすぎるよ」
「いや、だからな、他にもう方法がないんだよ」
「でも……あぶないよ? えーちゃん言ってたもん。もしそるにいにたのまれてもぜったいつかうなって」
「あいつめ」
えーちゃん、エーデルワイスの顔を思い出し、ソルトはため息をつく。
エーデルワイスが危険と言い、そしてこの少女ブバルディアが持っている固有魔法【ユメセカイ】。それは現実と精神世界の接続を可能とする魔法である。
これを使えば昏睡状態のクルルシアにも干渉できる、というのがソルトの希望であり、予測であり、そしてこれから彼が実行したいものである。
だが、義妹たちが心配するのはその魔法の副作用、いや、失敗する可能性と言ってもいい。
この魔法を使えるブバルディア。年齢は八つ。いまだに完全に魔法を使いこなしているとはいえず暴発する可能性や、クルルシアの精神世界に侵入したソルトを援助することなどが難しいのだ。
そして失敗したらどうなるか。
単純だ。ソルトはクルルシアの精神世界の取り残され、現実のソルトも寝たきりの植物状態になってしまう。
魔法の精度に不安がある義妹たちとしてはそんな危険をソルトに侵してほしくないのだ。ただでさえ孤児院の二女であったセタリアが死に、長女であるクルルシアが心的外傷で倒れた今なのだから。
だが、ソルトも引くわけにはいかない。クルルシアがいなければ彼らは戦力不足だ。敵は国に、転生者に、異世界勇者。ソルト一人が頑張ったところで厳しい戦いとなるだろう。
それにクルルシアは孤児院の子供たちの、その精神的支柱である。いつまでも倒れていてもらっては困るのだ。
それに、ソルトはこんな弱っている義姉を黙って見ていることはできない。
彼は【勇者】なのだから。
「ディア、大丈夫だ。俺は絶対に戻ってくるから。その力を使ってくれ」
「で、でも……」
しぶるブバルディアにソルトは目線を合わせ、両手を彼女の肩に添える。
「大丈夫だ、俺が絶対にクル姉をつれて帰ってくるから。お前たちはただ、帰ってくるのを待てばいい」
「……うん……わかった」
そういうと彼女は寝ているクルルシアの横に近づいていき、ソルトもそれにならう。
「ぜったいに……ぜったいにかえってきてね。あたいのせいでそるにいまでしぬとかいやだよ」
「約束するよ」
少し涙を浮かべながらの義妹の懇願にソルトは決意をもって答える。
「【ユメセカイ】発動」




