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道に咲く華  作者: おの はるか
我、恋慕の道を突き進む
122/174

死に人の行進編 終戦

まだ……つづいてた……

「あ、いたいた」


 ジギタリスを探していたスノードロップ。案の定、というか彼女の狙った通り、ジギタリスの体は木の枝に引っかかり助けを求めている状態であった。


「あ、おいスノー! 助けてくれてありがとう……なんていうとでも思ってんのか!? ああん?! お前ふざけんじゃねえぞ! 投げるとしてももうちょっと丁寧に投げやがれ!」

「うんうん、それでこそジギちゃん」

「いいから早くおろせ!!」


 木の上で、身動きが取れないながらも手足をぶんぶんと振るい、スノーを急かす。


「わかったよ~。よいしょっと」

「うんうん、それでいいんだ……。おい、スノー、待て、お前まさか」

「木丸ごと引っこ抜くから衝撃に備えてね」

「だからお前はああああああ」


 直後、自身の数十倍の大きさを持つ巨木を死体だからこそ出せる筋力で根元から引っこ抜いたスノー。彼女は死体故に、そして死体を常に最善に保つ故に、


 常に物事を深く考えず、


 常に周りに流されて、


 今日も今日とて、その怪力をふるうのであった。


〇〇〇


「チェリシュ! チェリシュはどこですか!」

「私はここよ。そんなにいそいでどうしたの?」


 また森の中の別の場所、スノーと別れたマドルガータは慌てた様子でチェリシュを探していた。、そしてその声にこたえるようにして木陰で隠れて休んでいたチェリシュがひょっこりと顔をのぞかせる。


「チェリシュ! 撤退です! 撤退します!」

「どうしたのよ。あなたらしくもない。【直感】でも働いたの? 私ちょっと動けそうにないのだけど……」


 自身に【身体強化】の魔法をかけすぎた彼女は今ぼろぼろであった。よってチェリシュとしては敵を倒した直後であるこの時間に少しでも休んでおきたいのだ。


 だが、マドルガータは本気で慌てているらしかった。


「ならいいです。そのまま休んでいてください。私が人形で抱えます」


 そう言うや否や、人形のうち一体を召喚するとそれがチェリシュを背負う。


「ちょっと、マドル。どれだけ嫌な予感がしているのよ」

「とんでもなくです。私の全身が全力で逃げろと――」


 マドルが言い切る前に、


「誰から逃げるって?」


 二人の後ろから男の声が響く。


「な……」

「あなたは?!」


 その声にマドルは驚き口が動かなくなる。そして、振り返って姿を見てチェリシュが驚き、その人物の名前を言う。


「シューク・ドルストン……。学校の一先生なのに暇なようね」

「ご名答だ。馬鹿弟子以外にも知っていたか。ああ、暇だ。誰かさんが戦争で生徒を引っ張り出していったせいでな」

「あなたを知っていたのは当り前でしょう。おそらくマドルガータを唯一完封できる人と言ったらあなたしかいないわ」

「それは随分と過大評価だ。もう少し過少評価してくれてもいいんだぞ」

「実際完封したでしょう、私たちが聖剣と魔王の体を奪還しようとしたときに」

「はて、そうだったか。まあ、確かに、馬鹿弟子に、そのマドルガータに前世で人形劇を仕込んだのは俺だし、あいつの行動も性格もすべて予想できるがな」


 そこで今まで黙っていたマドルガータが口を開く。


「あの……お師匠様……なぜここが……」

「あ? ああ。俺がここに来た理由か。それはもちろんお前を止めるためだ。馬鹿弟子がいつまでも悪さをしているのを止めないわけにはいかない。あ、それともお前たちを見つけた理由だったか? それならもっと簡単だ。この前会ったときにマーキングしただけだ」


 そういうともう言うことはないと言わんばかりに木偶人形を七体、展開するシューク。


「そういうこと……マドル、私も戦うわ。おろして」

「しかしチェリシュ……まだ動けないのでは――」

「そうもいっていられないでしょう。それとも何? あなたはあの人に勝てるの?」

「……頼みます」


 その会話がひと段落したのを見てシュークは人形を動かす。


「準備はできたか? 行くぞ」


 七体の人形が正面から、そして十体の人形が上空から襲い掛かる。


「な?! チェリ――」

「慌てるな! 神届物(ギフト)【幽霊武器・不殺(ころさず)の閃光弾】!!」

「ちっ」


 直後、すべてを貫通して網膜を焼く光がまき散らされる。シュークはとっさに後退するが幾ばくかの光を目に受け視界がつぶれる。


「今よ! マドル!」

「は、はい!」


 即座に人形を操作し、チェリシュと自信を拾い上げると悪魔喰いの二人は撤退するのであった。


〇〇〇


「ジギ~。機嫌なおしてよ~」

「……」

「ジギ~!」


 ジギタリスとスノードロップの二人。さっきからずっとこの調子であった。それも当然、スノーの助け方が毎回毎回雑なせいだ。


 もっとも毎回毎回助けてもらっているジギタリスにも責任があるが。


 数十回に及ぶスノーの謝罪、そののちにようやくジギタリスがスノードロップを見据える。


「はぁ、もういいよ。次からはほんの少しでいいから手加減してくれ」

「うん! うん! 気を付ける!」

「ったくよ~」


 ぎゅっとスノードロップがジギタリスに抱き着く。嫌がる様子も見せずにジギタリスは対応する。



 その時だった。


「?!」

「!?」


 二人の全身は、殺気を感じ、足ががくがくと震えだす。スノードロップは死体であるためないが、ジギタリスは冷や汗をだらだらとかく。


 そして、二人の前に現れる、その元凶。


「正義の剣よ。答えなさい。彼らは悪か、それとも善か」


 それは日本人のようであった。見た目はジギタリスたちよりも一回りほど年上、ソルトと同い年か少し上だろう。肩に担いだ折れた大剣に質問しているようだ。


『白黒の髪を持つ者は死体。死してなお体を動かすもの。紫の髪を持つ者は毒を操りし者。過去に村一つの人間を皆殺しにした経験あり』


 そしてその剣から声が返ってくる。それを聞くと少女はうなずいた。


「そうか……つまり」


 そして肩に担ぎ、先ほどは質問までした剣を正面に構える。


「二人とも悪ね」


 正義を掲げる剣が二人に襲い掛かった。


〇〇〇


「ここは……どこだろう……」


 ぼんやりとした意識の中、彼女の心は虚無をさまよう。


「そっか……私、死んだんだ……」


 誰に届くこともない心の声。だが、だからこそ、彼女の本当の願いが聞こえてくる。


「ああ、別に歌手でなくていいから……次こそは平和な世界で生きたいな……拒絶しなくてもいいような……希望がすぐ近くにあるような……」


 そしてその意識は光に包まれる。


「ああ、温かい。思わず眠ってしまいそう」


 ぼんやりと薄れゆく意識の中で少女は願う。


「あ、ヴァンがいたらもっと嬉しいな……」


〇〇〇


この章の死者


悪魔喰い ミネルヴァ・アルトリア   (残り八名)

     ヴァン・アルトリア


ガダバナートス十四柱 節制の使徒ポピトラ・カイロ  (残り十名)

異世界勇者 八名(残り十九名)

孤児院 スノードロップ・ファミーユ(もとから死んでる) (残り十四名・シャル、非戦闘員含む)

我、恋慕の道を突き進む【完】


次章

俺は戦乱の道を切り開く


(こんどこそ)

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