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道に咲く華  作者: おの はるか
我、恋慕の道を突き進む
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死に人の行進編 死者と生者の境界

 チェリシュがミネルヴァを見届けた、ちょうど同じころ。節制の使徒を倒したジギタリス、マドルガータ、スノードロップだったが状況は一変していた。


 ジギタリスの目の前でマドルガータが倒れた。頭上半分を吹き飛ばされて、ぐらりと力なく地面に倒れこむ。


「は?」

「へ?」


 呆然とするジギタリスとスノードロップ。さっきまで軽々と異世界勇者の死体の神届物(ギフト)を防いでいた彼女が急に倒れたことに戸惑いを隠せない。


 だが、マドルガータが倒れた原因は一目瞭然であった。


 長い、長い棒のようなものが、遥遠くより伸びており、それがマドルガータの頭を吹き飛ばしたのであった。


 そう、まるで狙撃のように。


「はは、はははは、ざまぁみろ! 使徒様を殺すからそうなるんだ!」


 目に怪しい光を灯しながら異世界勇者の死体使いが倒れたマドルガータを見ながら笑う。そしてその目がまだ動いていたスノードロップとジギタリスに向く。


「さあ、次はお前らだ」


 直後、上空より無数の剣が降ってくる。死体となった異世界勇者の神届物だ。マドルガータの人形でなければどんな魔法も切り裂かれてしまうのは明白で、そしてマドルガータがいない今、二人に防ぐすべがないのも明白だった。


 だから、スノーは動いた。


「ジギちゃん、ごめん!」

「は? うおおおおおちょっとまてええええええええええええ」 


 スノードロップは、ジギタリスを投げた(・・・)。幼い少女が出せる腕力では不可能な放物線を描きながらジギタリスは飛んでいく。


 そして飛ばされる中、ジギタリスは無数の剣がスノーを突き刺すのを見た。


〇〇〇


「ふ、ふふ、ヒヒ。使徒様……使徒様……見ていますか! 仇は取れましたよ! あとはあの少女を追いかければおしまいですとも!」


 不気味な笑顔を顔に張り付けながら、家会勇者の少年はうつろな足取りでジギタリスが飛んで行った方向に歩を進め始める。


「おい、起きろ」


 その声は目の前の二人の死体、マドルガータとスノードロップの死体に向けたもの。彼の神届物は死体を操ること。声は必要ないがいら立ちをぶつけてしまう。


 頭がない死体が、全身を剣で貫かれた死体が少年の意に沿って立ち上がる。


「さて、行くか。これで弔い合戦もおしまいだ」


 自分の周りに待機する死体を見渡しながら戦力の確認をする。悪魔喰い一人に異世界勇者が三人、さらにソルトの妹が一人いれば十分だろう。


「あ、ところでお前の能力は何なんだ? そこの悪魔喰いのやつは人形を操るんだろうけど」


 スノ―ドロップの死体に向けて言葉を発する少年。


「あうrずくぃztzりぇyじりすぁy」


「え?」


 少年は聞き返す。今まで死体を使役する中で話しかけることもあったがどれも機械的に、少年が発した問いに答えてくれた。このように理解できないことはなかった。


「もう一度言ってくれるかい?」


 聞き間違い化と思った少年はスノーに目線を合わせより、神届物の効果を強く意識する。こうすることでより精密に支配下に置けるのだ。


「szjぜz、こういうことです!」


 次の瞬間、彼の頭はひしゃげ、胸から腕が生えた。


〇〇〇


 スノードロップ・ファミーユ。享年十二歳。とある町にて馬車にひかれたことにより死亡。平民の家の子で新聞配達をしていたところ貴族の馬車にひかれた模様。


 家族は深く悲しみ、また、少女の快活さに惹かれていた町の人々もその死を深く悲しんだ。


 はずだった。




 二年後、少女によく似た少女の目撃情報が寄せられるようになった。最初は少女が埋められた墓の近く。だが次第に目撃される箇所も増え、不気味な噂となって町に広がった。


 だが、町の人はどうせ誰かの嘘だろうと気にも留めなかった。家族も葬式でしっかりと別れ、土葬もアンデッド対策の札も棺につけて埋めたのだ。


 だが、次第に噂は広がり続けた。そしてついに目撃証言は家族の住む家のすぐ近くまで届いた。



 とある夜。


 こんこん、と家族の住む家の戸を叩く音がする。


 不審に思った家族は父が武器を持って戸を開いた。


 そこにいたのは


「ただいま! 帰ってきたよ!」


〇〇〇


「ふ~。痛覚ないって言っても怖いもんは怖いんだからねってもう聞こえてないか」


 両腕で少年の頭を左右から叩き潰した少女、スノードロップは血と脳漿に塗れた手をぶんぶんとふる。


「で? マドルガータさんのそれは何?」

「私のは神届物です。それよりあなたこそなんですか。神届物ではありませんよね?」


 異世界勇者の胸の腕を突き立てた少女、マドルガータ。すでに頭は元に戻っており先ほどまで死んでいた気配は微塵もない。


「ふふ~秘密で~す」

「……まあ、いいでしょう。おおよそ死体操作といったところでしょうか。もっとも自分を操っていたとは驚きましたが」

「……なんだ……ばれちゃってるのか」


 少し落ち込んだ様子を見せるスノードロップ。


「まあ他人の死体は操りたくないんだけどね」

「なるほど……ん!?」

「ん? マドルガータさん、どうしたの?」

「い、いえ、なんでもありません。これでは私は失礼します」


 突然慌てたようにマドルガータが人形を異空間にしまい込み、森をかこっていた結界も消え去る。周りの異世界勇者たちの死体に目もくれずその場を後にする。


「……これって死体処理したほうがいいのかな。あ、その前にジギちゃん回収しないと」


 一人その場に残されたスノードロップは投げ飛ばしたジギタリスのことを思い出し、とてとてとその方向に歩を進めるのであった。


〇〇〇


「あらま、手遅れでしたか」


 森の様子を一人の女性が車いすに乗りながら眺める。


「そのようですね。節制の使徒様は死亡。死体を操る異世界勇者も死亡。カレイ様いかがなされますか?」


 そしてその隣に立つ青年が少女に聞く。


「そうねえ。ちょっかいを出してもいいけれどまともに戦うのは分が悪いわ。今回はあきらめましょう」

「承知いたしました」


 車いすを引き返し二人は森から離れるのであった。


「それにちょうど【正義】もこの近くにいます。誘導すればぶつけることはたやすいでしょう」


〇〇〇


 そして、その森の状況を見ていたのはもう二人。


「ふむ、馬鹿弟子はあそこか」


 一人の壮年が頭をがしがしと掻きながら森に向かい、


「我、遠山銀奈。家訓に基づき、正義を執行す」


 また別の場所で一人の少女が折れた大剣を背負い直し、森へと進む。


 森の戦闘はまだ終わらない。



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