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道に咲く華  作者: おの はるか
我、恋慕の道を突き進む
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死に人の行進編 死者は死者の道へ

マドルガータ達が戦闘をしている頃のチェリシュさん

「やっぱり私の神届物(ギフト)だと、死体にいくら打ち込んでも無意味、か」


 矢を放った姿勢で呆れたようにチェリシュは観察する。

 視線の先にはすでに彼女の神届物(ギフト)である【幽霊武器】の矢を、剣を、槍を、体中に刺されたミネルヴァがいた。だが、その動きは全く衰えておらず再び息を吸い込む。


「やばっ」


 その様子を見るやチェリシュは即座に森の木々に紛れながら後退。結界の中でもできる限り遠い場所に避難すると魔法を唱え始める。


「風よ、音をせき止める盾となれ。風魔法【風檻】」


 両手を前に、つまりミネルヴァの方向へと向け素早く詠唱を終わらせる。


 直後、


「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


 衝撃と、そして黄金のような歌声がチェリシュの周囲を襲う。


「くっ!」


 魔法で作った空気の結界に閉じこもり、その衝撃が弱まるのを待つ。


 ミネルヴァのやったことは単純、息を吸い込み、そしてそれを発声という形で送り出しただけ。だが、そんな単純な行為も生前がプロの歌手であるミネルヴァがやれば、そして魔法で、拡散する音の衝撃を一方向にまとめ上げれば音響破壊兵器の完成である。


 がりがりと周りの森が削られていくのを結界を通じた視界で知りながらチェリシュは結界を解除するタイミングを計りつつ武器を召喚する。


「来たれ、縁ある我が武器よ。眼の前の、憐れなる彼女を救済せよ。【神龍の治癒杖】」


 一拍後、彼女の作った空気の結界の中で時空が歪み、そして次の瞬間、杖が現れる。下端のとがった白棒に上端には花のように虹色に輝く何かのうろこが装飾されている。


 同時に、ミネルヴァが息を吐ききったのか、音の衝撃が弱まり始める。


 普通であればチェリシュがミネルヴァの守りに特化した神届物を突破して攻撃を与えるのは至難だ。彼女の神届物【希望は(ホープ・イズ・)世界の(アトジエンド・)果てに(オブ・ザ・ワールド)】は神の与えた力、本来力押しで壊せるものではない。


 もちろんチェリシュの神届物【幽霊武器】も神からもらった力。すべての物体を通過し、その軌跡に貫通したのと同じ仮想傷を与えるというもの。武器次第ではミネルヴァの神届物を突破することができる。


 だが、それだけだ。彼女の神届物は決して敵を傷つけることはない。脳に傷を負わせたと勘違いさせるのみ。よって死体であるミネルヴァに、いくら攻撃しても意味はない。脳が動いているわけではないからだ。


 だからさんざんチェリシュの神届物である【幽霊武器】で攻撃してもミネルヴァは動き続けている。


 よって、彼女は神届物以外の攻撃でミネルヴァに攻撃しなければならないのだが問題が生じる。


 ミネルヴァの神届が固すぎる。これに尽きるのだ。普通の魔法や打撃の力押しでミネルヴァの神届物が破られるなんてことはチェリシュが知る限り一度きり。


 クルルシア・パレード・ファミーユのみだ。彼女以外にミネルヴァの守りを突破した人物はいない。


 その力押しの仕組みがチェリシュにわからない以上、彼女がとるのは正攻法ではない。


「音が止まるまで……あと三秒」


 杖を握りしめ、チェリシュは隙を伺う。



 チェリシュの考える神届物の唯一の弱点。それは必ず詠唱しなければならないということ。自動発動するものもあるが基本的に変わりはない。


 そしてだ。ミネルヴァは音の攻撃を届けるために攻撃を仕掛ける瞬間のみ自身を取り囲む結界を消す。そして息を吸い込み、再び神届物を唱えるまでの間のみ無防備になる。


 彼女が狙うのは音の攻撃が止まり、ミネルヴァが息を吸い込む時。


「今! 焼き殺せ! 浄化せよ! 炎風魔法【獄激】」


 短い詠唱。だが音の攻撃が止まった瞬間に唱えられたその魔法は音速も凌ぐ勢いで遠く離れたミネルヴァに飛んでいく。


 その数およそ三十。いずれもが灼熱の炎をまとい、風の作用によりさらに火の勢いを強めながら一人の少女に飛んでいく。


 詠唱の時間はない。だがこの攻撃が直撃すれば死体の状態であるミネルヴァでさえ耐えることはできない。


 であれば、ミネルヴァの次の行動は決まっていた。


 バクンっと空間が削り取られるような音が響く。同時にミネルヴァに向って言った炎の矢も空間ごと削り取られる。


 神届物とは違う、悪魔喰いの持つ力。ミネルヴァが大悪魔より与えられた能力は【悪魔の口】。それは空間ごと、一定の範囲を無に帰す、というものだ。


 魔法も物質も人も、指定範囲にいるもの存在するものすべてを消し去る。無詠唱で放たれるそれは知らなければよほど直感がよくない限り躱すことすら不可能だろう。


 たとえ必殺の一撃を放ってもその【悪魔の口】が発動するだけで打ち消されてしまう。知らなければ強大な脅威となるだろう。


 現にチェリシュが放った炎も一瞬のうちに消されてしまった。



 だが、知っていればその隙を狙える。詠唱ができないときの守りにミネルヴァが使用するのは決まって【悪魔の口】だった。


 そして、【悪魔の口】の有効範囲は視界のみ。


「死者よ、我が認めよう、その存在を。我が許そう、その道を。我が導こう、その先を」


 声はミネルヴァのすぐ後ろから。ばっとミネルヴァが振り向く。そこにいたのは神々しい光を放つ杖を天に掲げ、まさに聖人のような雰囲気さえまとったチェリシュだった。。


 身体教科を無理にかけ、炎がミネルヴァに迫ると同時に、同じ超速度で森の木々の間を縫って後ろに回り込んだ彼女は掲げた杖に魔力を流し込む。


 ミネルヴァが口を開く……が、



「光魔法 【死者縁環】 さようなら。私の義姉妹」


 ミネルヴァの神届物が発動する前に、ミネルヴァの魔法が発動。杖が一際輝くと一瞬のうちにミネルヴァを包み込む。


 その時間はわずか数秒。だがみるみるうちにミネルヴァの体から力が抜けていく。神届物による支配を消していっているのだ。


 膝から崩れ落ちていくミネルヴァ。その様子をチェリシュは黙って見届ける。



 彼女が見たミネルヴァの顔は安らかなものだった。


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