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道に咲く華  作者: おの はるか
我、恋慕の道を突き進む
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死に人の行進編 節制者の末路

「はああああなあああせえええええええ」


 空を浮遊する人形に捕獲され、足が地面から離れて数分、ジギタリスは人形の高速移動による風圧に耐えながら叫んでいた。一方白黒髪の少女スノードロップの方は静かに耐えている。


「静かにしてください。もう少しで敵が見えるはずです」


 そして、二体の人形を横に走らせながらマドルガータが木々の隙間を走り抜ける。目的地は前方にいるはずの死体を操る異世界勇者と、使徒と思われる男。

 赤い人形に抱えられているスノードロップがマドルガータに聞く。


「マドルガータさん、作戦はどうするのですか」

「作戦? そうですね……とりあえずあなたたちを捕まえている人形での遠距離攻撃で様子を見るつもりではありますが」

「なら正面からお願いできますか? 私たちは回り込んで攻撃します」

「わかりました。ではそうしましょう」


 そしてさらに速度を上げるマドルガータ。生身のはずだがその体は身体強化の魔法で強靭なものとなっており、普通の人間では不可能なほどの速度で走っている。


 森を抜け、敵を視認するまであと数秒。


〇〇〇


「ヴァン・アルトリアの反応が消えました。おそらく撃破されたものかと」


 森の外れで、死体を通して森の中の様子を探っていた少年は【節制の使徒】に状況を伝える、だが、使徒はその報告で悲しそうにするわけでも残念そうにするわけでもなく淡々と受け止める。


「ふむ、そうかね。ミネルヴァの方はどうなっている」

「そちらは一人と対峙しています。背格好から考えるとチェリシュという少女でしょう。そして他の三人はいません」

「となると……ここに向かっていると考えるのが普通だね。おっと、来たようだ」


 その時だった。森の方から魔法陣が起動する光が見える。木々に隠れているといってもその光は夜の闇の中では目立つ。


「あれは火魔法に水魔法のようですね。トウヤ、防ぐすべはありますか? なければ私の神届物で対処しますが」

「そうですね……相手の魔法の規模もわからないので対処をお願いしてもいいですか?」


 トウヤと呼ばれた異世界勇者は自分で対処することをすぐさまあきらめ使徒に頼る。当然だ。彼にあるのは死体を操る力だけ。この世界に来てまだ一年もたっていない彼に魔法を習得する時間はなかった。


 そして使徒がその返事をする前に、森から魔法が飛んでくる。それは巨大な炎の蛇と水の蛇であった。人を軽々と飲み込める咢を持つ二匹は木々を押し倒し、地響きを轟かせながら二人の男に迫りくる。


神届物(ギフト)【我、節制の道を貪りつくす】」


 それに対して使徒の男がとった行動は単純であった。右手を天に掲げ自身の能力を口にする。


 直後、夜の空に光が走る。光の奔流が迫り、大蛇の頭を貫きに行く。それも一つではない。いくつもの光が蛇の巨体をも貫いていく。


「すごい……派手な技ですね」

「なに、普段から魔力をためておけばこの程度のことはできるのだよ。それより……」


 トウヤが使徒の神届物に感心していると男の方は何かに気づいたようにあたりを見渡す。


「来るぞ」

「何がです?」


 トウヤの方は疑問を浮かべる。だが、その問いに使徒が答える前に


「毒仙術・龍顎毒牙!」

「上か!」


 上空から、夜の闇に紛れるようにしてジギタリスが強襲をかける。ジギタリスの固有魔法【毒仙術】。毒で生成された龍が、二人の男を飲み込むべくその咢を開く。


「甘いですよ。神届物【我、節制の道を貪りつくす】」


 だが、嫉妬の使徒は慌てない。先ほど二匹の蛇を貫いた光が同じように毒の龍をも貫く。


「うおお?! ちょ、ちょっとまてええ!」


 ジギタリスは龍の背中にしがみつきながら自身は光に当たらないように必死にかわす。毒で作られた龍は光に貫かれながらも、その体でトウヤと使徒を押しつぶさんと迫る。


「ふむ、私の能力では防ぎきれませんか。トウヤ君逃げますよ」


 毒の龍をかわすべく、使徒はトウヤに対して指示を出す。攻撃してぼろぼろにしてもそのまま降りかかってくる攻撃なのだから確かに躱すのが手っ取り早い。幸い原型をとどめていない毒の塊はすでに物が自由落下する速度と変わらない。よけるのは容易だろう。


「逃がさない!」

「使徒様!? 足元です!」

「?!」


 だが、トウヤがあげたのは了解ではなく驚きの声。そしてその声でようやく使徒も気づく。地面から自身の足を掴む腕が伸びていることに。


 いや、伸びているだけではない。そのまま少女の小さな手は使徒の足首を握り潰す。


「ぐう! お、おのれ!」


 身体強化を施した使徒の足でも潰されてしまえば動くことは出来ず、


 結果、異世界勇者のトウヤだけが退避し、


 使徒は毒に飲み込まれた。


〇〇〇


「やったか?」


 地面に直撃する直前、毒の龍の背から飛び降りたジギタリスは直撃した場所を観察する。毒の粘液に塗れているが、人ひとり分の体がぴくぴくと痙攣しているのが見て取れる。


「ジギいいいい!!」

「お、スノーは無事だったか」


 ぼこっと地面を割って一人の少女が現れる。土にまみれているが白黒の髪が特徴的なスノードロップである。


「無事だったか、じゃないでしょうが!! なんで私の体もしびれるような新しい毒使ってるのよ!? 私が生身だったら死んでるでしょ!」

「新しくはないぜ? ちょっと凶悪なくらいに濃くしただけだぜ。こんくらいしないと使徒みたいなやつに効くかどうかわからないしな」

「それはそうだけどおおお!」


 マドルガータによる遠距離攻撃で注意を前方に向け、ジギタリスが上空からの奇襲、そして躱されることを防ぐために地中からスノードロップが足を拘束。


 これがつい先程起こった出来事である。


「どうでしたか?」


 そして森の方からマドルガータも赤い人形と青い人形を引き連れてやってくる。


「あ、マドルガータさん! 使徒と思われる男は倒しましたよ! あとはそこでおびえてる異世界勇者だけです!」


 スノードロップが指さす。その方向には頭を抱えおびえ、泣き叫んでいる少年がいた。


「使徒様あああ生きてますよねええ! 生きてますよねえええ?! 死なないでくださいよおおおお?! まだ敵残ってるんですよおおおお!!」


 その様子をマドルガータは一瞥すると脅威ではないと判断、毒の塊の中で痙攣している使徒に視線を移す。


「一応とどめを刺しておきますか」


 そう言うや、マドルガータは人形を操作する。一瞬の迷いもなくその心臓を穿つ。


「があああああ?!」


 どうやら毒の中でもまだ生きていたようで心臓を貫かれた痛みからか悲鳴を上げる使徒。だがそれも一瞬のこと。息絶えたのか動きも止まる。


 だが、人形の動きは止まらずさらに体を分解、解体していく。


「うわあ……」

「ひでえ……」


 その惨状を眺めているジギタリスとスノードロップはドン引きした表情でその様子を眺めている。


「仕方ありません。そこの異世界勇者は死体使い。使えないように壊すのが定石です」

「そ、それはそうですけど……」


 その理由を聞いても顔はこわばったままの孤児院二人組であった。


「許さねえ! 使徒様をよくも! よくもやってくれたなああ!」


 だが、次はその場に怒声が響き渡る。見ると異世界勇者であるトウヤが膝をガクガクさせながらも血走った目でマドルガータ達三人を睨みつける。


「無駄なことを……」


 マドルガータに躊躇はない。迷うことなく赤と青の人形を差し向け、少年の命を奪いに行く。


 が、


「神届物【剣の裁き】」

「な!?」


 驚きの声は誰のものか。トウヤとはまた違った声が右方から聞こえる。だが、マドルガータにそちらを振り向く時間はなかった。直後上空から数十数百の剣がマドルガータたちに向かって降り注ぐ。突然の出来事に対応が一瞬遅れるが落下してくる剣を防ぐ程度ならば彼女は簡単に事をなせる。赤い人形を上空に差し向けその四肢をもって降りかかってくる剣を弾き飛ばす。


 だが、攻撃は終わらない。


「神届物【色彩華】」


 今度は三人の後ろから、少女の声が聞こえる。マドルガータたちが振り返った先で見たのはトウヤと同じくらいの少女。だが目に生気はなくすでに死んでいるのは明らかだった。だが、その体はしっかりと動き、絵の具をぶちまける。赤い絵の具が花火になって、黄色い絵の具が雷になってジギタリスたちに襲い掛かる。


 だが、その不意打ちも声を出したことでばれ、もう一体の人形が魔力で壁を作り、衝撃のすべてを弾き飛ばす。


「そういうことですか。確かに異世界勇者も死体になって操られていると言っていましたね。ジギタリスにスノードロップ、あなたたちに死なれては困るので私の人形の後ろにいなさ」


 そこでマドルガータの声は突然途切れた。


 当然だ。


 なにせ、顔の上半分が吹き飛ばされたのだから。

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