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道に咲く華  作者: おの はるか
我、恋慕の道を突き進む
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死に人の行進編 死者から零れるは絶望の歌

「おわった……のか?」


 ジギタリスが恐る恐る口を開く。

 ヴァンの死体の動きが止まり、崩れ落ちたのだ。死体とはいえもとはといえば普通の体。マドルガータの人形に散々ぼろぼろにされた体は呪いともいうべき神届物(ギフト)で原型を保っているに過ぎなかった。


「ええ、終わりました。活動の停止を確認。もう彼が動くことはないでしょう」


 元仲間であっても冷静に判断を下すマドルガータ。だがその横ではチェリシュが悲しげに目を背ける。


「ところでチェリシュさん……だよね? どうして彼と戦ってたの? クル姉様から聞いた容姿から考えると彼も悪魔食いだと思うのだけど」


 だが空気を読まずに白黒の髪を掻きながらスノードロップが悪魔喰いの二人に尋ねる。彼女たちは現在の悪魔喰いの状況を知らない。


「殺されたのよ。異世界勇者にね。そしてそのあと彼等の操り人形にされたわけ」


 ぶっきらぼうに答えるのはチェリシュだ。その声にはいら立ちが含まれ、異世界勇者に対する憎しみがありありと込められている。


 だが、異世界勇者に怨みを抱いているのは彼女だけではない。


「異世界勇者ぁ? あいつらどこにでもいるのかよ!」


 義姉セタリアを殺されたジギタリスは怒りをあらわにし、いつになく感情を高ぶらせる(実際に殺したのは嫉妬の使徒だが彼女たちにとっては同じことだ)。長髪も感情が高ぶったことによる魔力の荒れでいっそう紫色が濃くなっている。


 スノードロップの方も異世界勇者の単語を聞いた瞬間にピクリと眉を動かしチェリシュの方を見る。その様子を見てマドルガータは声を出す。


「そういうわけです。ふむ……あなたたちの方も何かあったようですね。また詳しい話を聞きたいところですがあいにく私たちも時間がありません。ミネルヴァを探さなければいけませんからね。彼女の神届物も危険といえば危険ですがもっと問題なのは……」

「けけ、ミネルヴァさんならさっき会ったぞ」

「はい、会いましたよ?」


 マドルガータがぶつぶつと何かを言い始めたが、それを遮るようにしてジギタリスとスノーが発言。その言葉にマドルガータとチェリシュはギョッと目を見開く。


「なんですって? いったいどこで!?」


 チェリシュがジギタリスに詰め寄り、その襟首を締め上げる。一方詰め寄られたジギタリスは苦しそうに答える。


「どこでって……俺たちが逃げてきた集団の最後尾にいたはずだぜ。一緒に倒したんじゃないのか?」

「そんなはずないわ。私がミネルヴァに気づかないはずがない」


 チェリシュが言い返す。そこにマドルガータも加わる。


「いえチェリシュ。さっきのヴァンのように生前の行動をトレースするというならば彼女の生前通りに動くはずです。彼女どんな時も走りませんから」

「……それもそうね。ジギタリスちゃんだっけ? ごめんなさいね」


 なにやら納得した顔となるチェリシュとマドルガータ。チェリシュは掴んでいた服を離すとジギタリスたちが逃げてきた方向に目を凝らす。


「うーん……まだ来てはいないようね……。不幸中の幸いかしら」

「私も今のうちに人形を変えておきましょう」

「おい、なにがどうなってんだよ。説明してくれなきゃわかんねーぞ」


 各々勝手に動き始めた悪魔喰いの二人を見て声を荒げるジギタリス。マドルガータが魔法陣を描きながら説明を開始する。


「彼女の能力が厄介なんです。条件がそろえば一対多でならまず負けることはない、そんな能力を持っているので」

「それって結界のこと? クル姉さまも確かに強力だと言ってたけど……」


 クルルシアの説明を思い出しながらスノードロップが発言。だがマドルガータは首を振る(・・・・)


「違います。確かに彼女の神届物は厄介ですが……」


 マドルガータは魔法陣を起動。青色を基調とした人形と赤色を基調とした人形を召喚するとチェリシュに言葉を交わす。


「チェリシュ、頼めますね?」

「ええ、私が対応するわ。マドルはその二人を連れて勇者のほうを頼むわ」

「おい、俺様達にも説明しろって」


 イライラしたように文句を言うジギタリス。だがそれには取り合わずに青い人形でジギタリスを、紅い人形でスノードロップを抱きかかえるとその場から離れる。


「時間がありません。彼女に私たち四人が視認されたらおしまいです」

「ちょ?! だから説明しろってええええ」


 人形に捕獲され、そのまま宙に飛ばされるジギタリス。


 彼女が最後に見たのはにこやかに手を振るチェリシュの姿であった。


〇〇〇


「ふむ……ここまでくれば大丈夫でしょう。私達は節制の使徒と死霊術を使っている異世界勇者の少年を探しましょうか」

「おい! だから説明しろって!」

「ジギ……そんなに怒らないで……」


 人形に抱きかかえられたままジギタリスが叫び、スノードロップはそれをいさめる。マドルガータは二人をおろすと向き直る。。


「ソルト君も短気なところはありましたがあなたも大概ですね……。それで? なにから聞きたいですか?」

「あ? てめえ今なんて言った?!」

「だからジギ! 抑えてって。私が聞くから! あの、なんでチェリシュさん一人残したんですか? いったい何を警戒してるんです?」


 白黒の混じった髪を整えながらスノードロップが聞く。


「ミネルヴァの固有魔法です。いえ、神届物もですかね。彼女の能力はどれも一対多に向いているんです。あそこで私たち四人が協力するよりもミネルヴァの能力を知り尽くしているチェリシュだけで対応したほうが確実です」

「な、なるほど……」

「それにこれから向かう使徒の能力も不明です。幅広く対応できる私が向かったほうがいいでしょう」


 再び前を向き、ザッザっと地面の落ち葉を踏みながら夜の森の中、マドルガータは敵を探しに動き出す。ジギタリスとスノードロップも慌ててついていくのであった。


〇〇〇


「敵……発見……交戦開始」

「やっぱり歩いて移動してたのね……」


 木の上からチェリシュは、地面を歩いてきたミネルヴァを見下ろす。


「神届物【ここは(ヒアイズ)我の(マイ)理想の世界(アイデルワールド)】」


 ミネルヴァが両手を掲げ、それに伴って結界が構築されていく。


「やっぱりそれね……。相手が一人なら当然隠れている相手にも通じる攻撃手段を取るわよね」


 構築されていく結界を見ながらチェリシュは呟く。


 その結界はいつもの直方体ではなかった。いつもの無色の結界ではなかった。


 座席があった。舞台があった。天幕があった。


 音が反射しやすいであろう天井は丸く、ミネルヴァの立つ場所を中心に華やかな色で染まっていく。


 現代の人が見ればだれもがその荘厳さに息をのみながら言うであろう。。


 【なんと立派な劇場なのか】と


「舞台は……整った……固有魔法発動する」


 目はうつろだがその声はいつもの、いや、生前の、よく響く声で喋る。


 鮮やかな舞台に囲まれたミネルヴァのその姿は彼女が死体であるにも関わらずまさに可憐な姿であった。


 ミネルヴァ・アルトリア。前世は歌手、その死因は衰弱死。


「あなたの歌声は、生きてるときに、もっと聞きたかったわね……」


 残念そうに呟き、彼女もまた武器を構える。今まさに息を吸いこんだ歌姫(ミネルヴァ)を前にして。

しばらくリアルの用事のため執筆が送れます

おそらく六月上旬まで……

ゆくりとお待ちいただければ幸いです

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