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道に咲く華  作者: おの はるか
我、恋慕の道を突き進む
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死に人の行進編 恐喝するは生者の特権

 木が折れる。大地も割れる。空気は爆発し、鳥は逃げ惑う。


 マドルガータの操る人形アルバと、元悪魔喰いにして現在死体のヴァン・アルトリアの闘いが始まって数十秒。その間にすくすくと育っていた植物達は、その(ことごと)くがなぎ倒され、地面は陥没し、砂塵が巻き起こる。


 原因はヴァンの攻撃だ。彼の掌打はひとたび放たれれば空気を介して直線に進み、あらゆる物を砕く。


 そのため一撃放たれる度に、どこかの大地が割れ、大木が倒れ、どこぞの植物が散っていく。


「チェリシュ! そっちはどうですか!」

「ごめん! まだそっちには行けない!」


 現在、マドルガータとチェリシュは苦戦していた。その原因は……


「くそっ! どんだけいるのよ!」


 言った傍から、チェリシュの周りの地面から死体が出現する。人の死骸もあれば魔物と思われる死体もある。

 チェリシュは彼らが出てくる瞬間に、光魔法で作った槍を振り回しながら浄化していくのであった。


 一方マドルガータはというと彼女はひたすらにヴァンの攻撃を避けながら人形で足止めしていた。生身の彼女達がヴァンの攻撃を食らえば一撃で消し飛ぶのは間違いない。彼女の人形だからこそ受けとめることができるのだ。

 チェリシュの神届物が死体に通じない以上これが最適だろう。


 本当ならば彼女達も二人がかりでヴァンを倒したい。だが、周りから湧き出る死体達がそれを許さないのだ。


「これで……六十! まだまだいるわね……ん?」


 光り輝く槍を振り回しながら数えるチェリシュ。だが、森に入る前に彼女が確認した限り地表を歩く死体だけでも百は軽く超えていた。地面にも潜んでいるとしたらその数は計り知れない。



 その時だった。どどどど、という地響きをチェリシュは感知する。だが、マドルガータ達の方を見ても変わりは無い。先程から特に戦闘で変化は起こっておらず人形とヴァンが殴り合っているだけだ。地響きとは無縁と思われた。


 でば、その震源はどこからか。地面から湧き出てくる死体を切り裂きながら辺りの気配を探る。


 そして見つけた。二人の少女が自分たちの方向に走ってくる姿を。そしてその後ろを追いかける死体の群れも……。


「ふざけんなよ!?」


 思わず地が出るチェリシュであった。


〇〇〇


「いた! ジギ! 見つけたよ!」

「お前はもう少し危機感を持て! 俺様は死んだら終わりなんだよ!」


 二人の少女。スノードロップとジギタリスは走る。後ろに数十の死体を引き連れながら。


「はいは~い、大丈夫だよ追いつかれても私が何とかできるし。それよりもこれからどうするの?」

「とりあえずもう少し近くまで行くんだ。そしたら光魔法使ってるチェリシュさんに近づいていくはず……うわっ!?」


 突然、前方から鞭のように鎖が伸びる。


 対応できずに足を拘束されるジギタリス。そのまま引っ張られて前方に跳んでいく。スノードロップも慌ててそれを追いかけるのであった。


〇〇〇


「がはっ」


 足を引っ張られ、そのまま地面に叩き付けられたジギタリス。彼女が足につながれた鎖の先を視線で追っていくと、そこではチェリシュが槍を振り回しながら死体を屠っていた。その右手にはジギタリスを捕まえたと思われる鎖が握られている。


「ちょっとぶりね」


 チェリシュの声が森に響く。


「俺様達に何か用なのかよ」


 あくまで喧嘩腰のジキタリス。だがチェリシュはそれを許さない。


「こっちの台詞よ。あれだけの死体を引き連れて何をするつもりだのかしら?」

「ちぇ、バレてたのか」


 いたずらがバレた子供のようにニヤリと笑うジギタリス。


 だが、次の瞬間、チェリシュは彼女の首元に白の槍を添える。


「選びなさい。今からでも協力するか、首をはねられて死ぬか」

「けけけ。容赦ねえなぁ。流石は」

「時間稼ぎも無駄よ。あなたの毒ガスより私の槍のほうが早い。言っておくけれどこの槍はわたしの神届物じゃないわ。普通の魔法で、簡単に人を殺せるわ」


 ぐっとチェリシュはジギタリスの首に槍を押しつける。血が滲み、魔力で作られたにも関わらず、その槍が本物に近いものであることをジギタリスは知る。


「…………わかった。協力する。けけ」


 まだ迷っていたが彼女に選択肢はなかった。コクコクと首を振りながらチェリシュを襲おうとしていた無色の毒を消す。


「毒も消したわね。いいわ。一応確認するけれどあなたは毒を操れるのよね?」

「そ、そうだが」

「麻痺毒なら何でも良いわ。ありったけ準備しておいて」


 チェリシュはそう伝えるとスノードロップがいる方向に走りだした。


〇〇〇


「ひええ?!」


 驚きの声が森に響き渡る。声の主はスノードロップ。当然だ。後ろからは亡者の群れが、前からは要注意人物と散々聞かされていたチェリシュが猛然と迫ってくるのだ。


 チェリシュが槍を掲げ、振りかぶり、


「いやああ!」


 スノードロップが恐怖からしゃがみ込み、


 直後、チェリシュの振り下ろした槍が亡者を捕らえた。


「え?」


 混乱するスノードロップ。その間にもチェリシュは腕を休めることなく亡者を屠り続ける。

 そして三十秒もしないうちに二人の少女を追いかけていた亡者はその全てが天に召されたのであった。


「あの……なんで……?」


 ジギタリスとの話を知らないスノードロップは何故助けられたのかが分からず混乱する。


「あの子との交渉は終わったわ。こんどはあなた。協力しなさい。しないならここで……」

「協力します!」

「そ、そう……」


 チェリシュが最後まで言い終わらないうちにスノードロップは白黒の髪をゆさゆさ揺らしながら頷く。その身替わりの素早さに驚くチェリシュであった。


「おい! できたぞ!」


 遠くからジギタリスの声が届く。何やら黄色い固形物を手にしながらチェリシュ達の方に手を振っている。


「できたわね。いいわ。まずはヴァンを終わらす。救ってみせる」


〇〇〇


 ガンっ、ギンっ、とまるで金属同士がぶつかるような音が森の木々にこだまする。

 既にマドルガータの人形は塗装が剥げ、中の骨格がところどころ露出し始めている。


 それほどまでにヴァンの一撃一撃は重いのだ。


(チェリシュ……まだですか……)


 マドルガータは焦っていた。じわじわと限界を迎えていく人形を傍目に見ながら彼女は操作し続ける。


 その時だった。


「マドル! 離れなさい!」

「了解です!」


 チェリシュの声が響き、マドルガータはそれに応える。人形は動かしてヴァンの足止めをしたまま後退。


「【毒鱗粉】!」


 上空から、黄色い粉がマドルガータの人形とヴァンに降りかかる。

 この黄色い粉の正体は当然毒。ジギタリスがチェリシュに言われて準備した麻痺毒である。


「あ?!」


 異変に気付いたヴァンの死体だったが人形がそこから逃げることを赦さない。


 また、麻痺毒だけではなかったのか、じわじわと皮膚が爛れ、筋肉も崩れていくヴァンの体。そこに追い打ちをかけるかのように人形アルバがたたみかける。


 ヴァンの体が脆くなっていたのか、人形が一度腕を振るえばヴァンの右手が吹き飛び、追撃とばかりに懐に潜り込む。


「光魔法【聖人の籠手(こて)】」


 遠方からチェリシュの声が届く。同時に人形の腕が白く輝く。死体の呪いを浄化する作用を人形に持たせたのだ。


 また一撃、マドルガータの操る人形が動き、次は左腕を吹き飛ばす。体のバランスを崩すヴァン。


「【破城槌】」


 そのがら空きの胴に、城すらも破壊できるであろう人形アルバの拳が、白き光を纏って放たれた。


「ミネルヴァも……頼む……」


 そんな声が四人の耳に届く。ヴァンの死体は崩れ去り、何かが光の粒子となって消えた。

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