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道に咲く華  作者: おの はるか
我、恋慕の道を突き進む
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悪魔喰い激突編 肆

【魔王軍が動きだしだ!】


 孤児院襲撃、悪魔喰いの拠点襲撃があってから三日、このニュースは瞬く間に王国連を始め、全ての国の民に報された。


 誰しもが不安に陥り、そして、勇者へと希望を託す。当然だ。魔族は魔物とは違うのだ。明らかに魔族には知性があり、そして人に比べて強大な力を秘めている。勇者がいなければとっくの昔に人は滅ぼされていただろう。

 それにシャルトラッハ王国含む王国連の八か国のうちすでに一国の軍隊が音信不通となっていることも恐怖の原因となっている。

 

「安心して下さい! 俺達が! 俺達が魔王や魔族を滅ぼして見せます! 人の国に平和を!」


 だが、その不安をかき消すように、リュウヤという一人の少年が魔族領に一番近いシャルトハッハ王国で演説をする。その声、一つ一つに民衆は沸き立つ。もうすぐ彼もまた先に出発した軍隊に合流したのち、魔族を倒すためにその力を振るうと、国民は信じている。


 二十年前もこうして勇者パーティーが出発し、魔王は打ち倒された、と伝えられているからだ。


「くすくすくす。愉快な話ですねぇ」


 演説が行われている広場から少し離れた食事処で、二人の若い女性が食事をしていた。


 クスクスと笑うのはギルドの受付嬢ナターシャ・クアドリリオン。白い髪を腰まで伸ばし、服も受付嬢の規定通りの給仕服のようなものに身を包む。


 そして相対しているのは


「ええ全く。仮に前魔王が人を滅ぼすつもりだったならば恐らく数日でことは足りていたでしょうね~。ガダバナートスの十四柱も各個撃破ならなんの問題も彼女にはなかったわ~。その存在を知らなかったことが彼女の敗因ね~」


 【悪魔喰い】団員ナンバー六。ナイル・パウラムであった。金色の髪を無造作に伸ばしその手にはカップが握られている。


「クスクス。しかし今回の勇者が神届物を手に入れたと聞いたときは驚いたものですが……観察する限り赤子に武器を持たせているようなもの」


 馬鹿らしくてたまらない、という様子で受付嬢の彼女は笑う。その姿は、そして悪魔喰いと会話するという行動はまさしく人類悪。

 だが、続くナイルの言葉に彼女は口を塞ぐことになる。


「それでも脅威には違いないわ~。実際ヴァンとミネルヴァが殺されたしね」

「……なんですって?」

「あら? あなたでも知らない? 三日前よ。アクアから連絡があったわ~。私の【悪魔の脳】も流石に予想外よ」

「そうですか……」


 黒い液体が入ったカップを口に運びながらナターシャは思案する。


「計画はどれくらい変わるの?」

「あなたがやるべきことは変わらないわ」


 そう言って代金だけを机の上に残すとナイルは席を立つ。


「クスクスクス。了解よ」


 邪悪な笑みで受付嬢は応えた。


〇〇〇


「ふう、演説って緊張するな」

「リュウヤ! お疲れ!」


 演説を終わらせ、四人の異世界勇者の少年たちは出発の準備を整え、王都の正門に集合する。彼等の胸の中にあるのは魔族を倒すという理想と使命感。それだけだ。


「よし! じゃあ俺たちも合流しようぜ! ほかのやつらがいるって言っても二十人弱だろ?」


 ほかのやつら、というのは彼等のクラスメイトのことである。三日前に孤児院襲撃に十数名、悪魔喰い襲撃に四名、すでに死んでいた四人、それらを除く残りのメンバーである。


 なぜこの四人だけがここにいるかというとギルドから手紙が来たからであった。もっともギルドに行ったはいいがギルドを取り締まる役人に聞いても誰も読んでいないらしく無駄に終わったのだが。

 ちなみに演説はついでである。


「そうだな! 俺たちが遅れる訳にはいかないよ」

「でもさ、あの手紙何だったんだろうな。ギルドにきてくださいって書いてあったのに言っても勘違いじゃないかってさ、ひどくね?」


 ユウという少年が文句を言う。自分たちを呼び出しておきながら門前払いされたことに腹が立っているのだ。実際はギルド側も誠心誠意対応していたが呼んでいない以上、戦争が近いこの時期に勇者をいつまでも王都に置いておくわけにはいかない。そのため、仕方なく追い出す形になったのだ。


「うーん……もしかして戦力の分散が目的だったのかな」


 だが、周りが文句を言っていてもカイトは一人冷静に状況を把握することに努める。地球にいたころからの癖だ。常に状況を知るために彼は考える。


「戦力の分散?」


 だが、ユウは理解できなかったらしく聞き返す。慣れているのかカイトの顔に不快の色はない。


「うん、僕たちってさ、魔族から見てもかなり危険なレベルの戦力を持っていると思うんだよね。与えられた能力が戦闘向きでなくても魔法は上級のものが簡単に使えるし」

「確かにな。それにリュウヤの神届物は最強だろ。戦線から遠ざけたかったのかもな」


 ダイという大柄な少年も納得したようにカイトの意見に合意を示す。だがそれも当然だろう。彼等は転生者である【悪魔喰い】とは幾度か戦いはしたものの、魔族とは相対したことがない。冒険に出ても出くわす魔物は弱く、正直に言って、自分たちを負かすような存在が魔族にいるとは思えなかったのだ。悪魔喰いは彼らの中で魔族とは別枠扱いらしい。あるいは目をそらしているだけか。


「なんだなんだ。じゃあ、魔族っていうのはかなりのビビりなんじゃねえの?」


 だが、心のどこかにあるそんな不安を吹き飛ばすように、四人の少年たちは笑う。そして意気揚々と王都の正門をくぐったところで、


「クスクスクス。自分を上位種だと考えるその思考。虫唾が走る」

「だ、誰だ?!」


 突然声をかけられ四人はその方向を見る。だが、そこには何もいない。


「ナターシャ・クアドリリオン。異世界勇者を殺すことだけを考えてきた憐れな蜘蛛よ」


 今度は逆方向から声がする。再び振り返る四人だったが、



 声がした方向とは全く別の方向から、ひゅんとわずかな音を立てながら四人の首目掛けて糸が射出された。



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