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道に咲く華  作者: おの はるか
我、恋慕の道を突き進む
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悪魔喰い激突編 参

 シャルトラッハ王国に続く街道で、二人の少女が突っ立っていた。


「おかしいですね……」

「マドル? どうかしたの?」


 マドルガータが自身を模して作られたと思われる手のひらくらいの布人形を耳に当て訝しげに声をあげ、チェリシュが問う。


 マドルガータが持っているこの人形は悪魔喰いの団員が互いに連絡を取るためにミネルヴァが制作したものだ。それぞれの団員を模して作られている。


「ミネルヴァと繋がらないのです。定時連絡の時間のはずですが……」

「でない? あのミネルヴァが?」


 チェリシュも納得できる顔ではない。ミネルヴァのおっとりとしながらもきっちりとした性格を考えると連絡が遅れるなどあり得ないと考える。その時、


【マドルガータ、チェリシュ、応答願う。こちらアクア】


 チェリシュの人形から他の団員の声がする。声の主はアクア・パーラ。獣人の二刀剣士である。


「どうしたの? 何か分かっ」

【拠点が潰された。千里眼で確認済み。ミネルヴァ、ヴァン、共に死亡、二人とも敵の手に落ちた】


 その報告にマドルガータもチェリシュも息を呑む。まだ自分たちが出発してから数時間。その僅かに手薄となった瞬間を狙われたことに警戒心は一気に高まる。


「一応確認するけれど……誰? 誰がやったの?」

【異世界勇者が四人、それと使徒が一名。恐らく【節制の使徒】。なお、生存者は使徒と異世界勇者の少年一人。他は全員死亡。ただ……】

「ただ?」

【推測だけど聞いて。生きのこった少年の能力は【死体操り】或いはそれ系統】

「はぁ?!」


 がらにもなくチェリシュは声を荒げる。


「ちょっと待ちなさい! じゃあさっき敵の手に落ちたっていうのは負けたとかではなくて」

【文字通り、敵の駒に成りはてた。今シャルトラッハ王国に向かっていると思われる。時期に二人もであうことになるはず。ナイルは魔族との闘いにでも使われると予測した。それまでに彼らを終わらして】


 ナイルというのは【悪魔の脳】を持つ、悪魔喰いの指揮を行う少女である。その結論は間違えたことはない。


「そう……分かったわ。ミネルヴァとヴァンに関しては私が終わらす……から」

【了解。とにかく、二人も用心を。奴ら私達の場所を把握してる。一人にはならない方がいい。私もこの任務が終わり次第ナイルと合流する】

「うん、アクアも気を付けて」


 それきり、人形からの声は止まる。だが、チェリシュはそのまま動かない。


「チェリシュ? どうかしまし……」

「ごめん、マドル、先に行ってて」


 顔を背けてままチェリシュはマドルに指示を出す。


「しかし、アクアも一人になってはならないと」

「いいから! 今は一人にして……」


 段々と涙声になるチェリシュ。そのことに気づいてマドルも行動を決める。


「?! マドル……」

「いいですよ。いいんです。泣いてもいいんです。私には嫉妬とか、悲しいとかそういう気持ちは分かりません。でも、あなたは分かるのでしょう? 私の代わりに泣いて下さい。傍にはいてあげます」


 そっと、チェリシュの成長途中の体を後ろから抱きしめるマドル。


「誰も! 誰にも! 死んで欲しくなんか無いのに! 私達は間違っていないはずなのに! なんでこうなるの!? 私はなんのためにこの世界に来たの?!」

「聞きますよ。聞きますよ」


 しばらく、その泣き声は街道に響いた。


〇〇〇


「連絡終了。私は私の任務に取りかかる」


 自分に言い聞かせるように一人、少女は呟く、頭には猫耳、腰には二振りの剣を引っ提げたその女性は歩を進める。


 進行方向にあるのは王国連の一つ、パークスト王国、その軍隊の駐屯地。


 周囲を取り囲む砦を見渡しながら少女は正門を堂々と近づく。


「何者だ!」


 門番である男達が槍を構え流石に止める。うろつくだけならよかったが流石に門を通過しようとするならば無理矢理にでも止めなければならない。


 だが、パキンと乾いた音が響いたかと思うと少女に向けられた槍の穂先が例外なく地面に落ちる。


「え? あれ?」


 穂先のなくなった槍の先を見ながら男達は呆然とする。少女の剣は腰に刺さったまま……


 ではなかった。二刀はいつの間にか鞘から引き抜かれ両手にそれぞれ握られていた。


 何が起こったか、男達は理解していない。だが、彼らの心の中にあるのは漠然とした本能的な恐怖。


「や、やれぇ!」


 上官の命令も待たずに一人の兵士が声をあげ、刀を抜く。穂先のなくなった槍を捨て、一斉に少女に襲いかかる……



 前に、全員の首が胴体から離れた。


「え?」


 二回目の驚きの声がその場に響く。既に兵士の視線の先に少女はおらず彼らは何が起こったかすら分からない。


「アクア・パーラ。出陣する」


 その瞳からは涙がこぼれ、茶色の瞳は怒りに燃えていた。


〇〇〇


「何事だ!?」


 群を束ねる軍官の一人があわただしく騒ぎ出した正門を見つめ不機嫌な声を漏らす。近くを走り去ろうとした部下の襟首をつかみ問い詰める。


「し、侵入者です! 正門から!」

「侵入者? ここは国軍の駐屯地だぞ? いったい誰が来るというのだ!」

「【悪魔喰い】です! 【悪魔喰い】の【鬼刃(きじん)】アクア・パーラが!」


 その名前を聞いた瞬間、軍官の顔も一気に青ざめる。しかし急いで立ち上がると一定以上の地位の将や軍官にのみ渡されている魔道具を起動し、駐屯地全体に己の意思を伝達する。


『総員! 退避せよ! 決して戦おうとするな! 総員! 退避せよ! 我らが敵は魔族! 【悪魔喰い】は異世界勇者に任せるべし! 繰り返す――』


〇〇〇


「そろそろ……」


 あたりを血の海に変えながらアクアは獣人の聴覚と嗅覚でであたりの様子をうかがう。さっきまでは侵入者である自分を仕留めようと四方八方から押し寄せていたのに今ではたった四人ほどが近づいてくるだけである。


「【番号鍵箱(ナンバーロックボックス)】、発動」


 腰に下げていた小さな道具入れからアクアは魔道具を取り出し、起動させる。


 その効果は一定の範囲内にいり人物を結界の中に閉じ込めるというシンプルなもの。かつて、四十年前の異世界勇者の殺害にも使われていたもの。


 今回で言えば軍隊のいた駐屯所すべてがその指定範囲となる。


 逃げようとしていた兵士たちは結界に阻まれ、逃げることができない。


 再び混乱に陥る兵士たちだったが先ほどとはまた別の軍官が魔道具で全員の統率を図る。


【諸君! 落ち着け! 敵はたった一人! 何を恐れることがある! 結界など魔法であろうが、魔道具を使おうが、術者を殺せばいいだけだ! たった一人の少女に何を恐れることがある! 戦え! 誇り高きパークスト王国の兵士たちよ!】


 男の掛け声に兵士たちは逃げようとしていた心が奮い立つ。正門に再び足を向け己の武器を準備して……


〇〇〇


 アクアは、近づいてきた四人の少年少女を確認する。いずれも軍隊に所属しているとは思えない軽装であり、まともな戦闘訓練をけて来た風には見えなかった。


「おい! そこのお姉さん! これ以上悪さするならこの俺たちが相手だ! 覚悟はいいだろうな!」


 男気にあふれた一人の少年がまだ慣れていなさそうな手つきで剣をアクアに向ける。


 その瞬間、少年の首がとんだ。


「え?」


 誰も目に負えなかった。他の無事だった異世界勇者が理解できたのはただ一つ。一人の少年が神から与えられた神届物(ギフト)を使うことすらなくこの世を去ったということ。


「覚悟? できてる。そっちは?」

神届物(ギフト)【虫の寵愛】」

神届物(ギフト)【認識阻害】」

神届物(ギフト)カフッ」


 慌てたようにほかの三人が神届物を唱えるが発動できたのは二人だけであった。少女の頭に先ほどまでアクアが持っていた刀が一本突き刺さる。投擲したのだ。それも目にもとまらぬスピードで。


 だが発動できた二人の能力はしっかりとアクアを襲う。


 一人は虫を召喚し操る能力。この世界には普通の昆虫だけでなく、魔物としての力を持った昆虫もいる。


 召喚した虫は集団で音速よりも速く飛行し、全身に毒の棘を持っており、かするだけでもいのちを危険に陥れる、SS級の魔物群。一度町に現れれば即座に町を滅ぼせる。


 そんな危険な魔物が一斉に四方八方から連携してアクアに襲い掛かる。常人であれば即座に体を穴だらけにされ、毒に犯されてしまうが、彼女は常人ではない。


「ふっ!」


 一刀になった手持ちの武器で襲い来る虫を自身の剣の間合いに入った瞬間に片っ端から切り刻む。的確に甲殻と甲殻の隙間に刃を入れ、あっという間に虫の死骸の山を築く。一匹としてアクアの茶髪に触れる虫はいなかった。


 そして地面に落ちている石を拾うと虫のお返しとばかりに少年の顔に向けて投擲し、


 少年の顔が爆散した。


「さて、もう一人は……ん?」


 あたりを見渡すアクア。だが、周りにさっきまでいたはずの異世界勇者の少年の姿はない。だが、アクアの勘は明らかに敵がすぐ近くにいることを伝えてくる。


「透明になる能力……違う……認識の阻害だとしたら」


 そういいながた自身の両目に魔力を通す。


「【悪魔の眼】発動」


 そして後ろから透明になって近付いてきた少年を一刀のもと切り伏せる。


「私のものでない目を使えば問題ありませんね」


〇〇〇


「この場所にいた異世界勇者の人数は四人。これで終了」


 四人の少年少女の骸が転がる中、冷静に状況を確認していくアクア。その時、一度は撤退の命令を受けた兵士たちが再びアクアのもとに集まってくる。


 隊列を整え、弓矢を構え、槍を向け、彼らは一斉に突撃を開始する。


「かかれぇ!! 異世界勇者様が稼いだ時間を無駄にするな!」

「任務は異世界勇者でしたが……ついでです。貴方たちも同じ場所に送る」


 心に憎悪を宿しながら少年少女から引き抜いた二刀をもって数千の兵士と相対する。


神届物(ギフト)疾風怒濤(シュトルム・ウント・ドラング)】」


 この日からパークスト国軍と連絡を取ったものはいない。。

最近なろうの転載問題が起こっております。私のものも転載されました。

原因が不明のため、誠に勝手ながら暫くはかなりの亀更新になるかと思われます。

問題が解決次第今のペースで投稿していくのでまたお待ちいただければ幸いです。


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