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道に咲く華  作者: おの はるか
我、恋慕の道を突き進む
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悪魔喰い激突編 弐

「【神届物(ギフト)】【万物変化】!」

「【神届物(ギフト)】【色彩華】!」

「【神届物(ギフト)】【剣の裁き】」


 三人の少年少女の【神届物(ギフト)】という声が響く。床が隆起し、雷が飛来し、上空から剣が降り注ぐ。


「ミネルヴァア!」


 厨房から飛び出した男、ヴァン・アルトリアがミネルヴァを突き飛ばし、


 そして、ミネルヴァを襲うはずだった攻撃はヴァンに襲いかかる。


「【悪魔の腕】発動!」


 だがヴァンは襲い来る攻撃を腕力で消し飛ばし、ヴァンはミネルヴァを抱えると三人の少年少女達から距離をとる。


「なんだよ。無傷かよ。つまらねえな」


 一人の少年が口から不満を漏らす。その不遜な様子を見てヴァンは迎撃に出ることを決める。ミネルヴァを横に降ろし、一人の少年に向き直る。


「【悪魔の腕】【腕撃】」


 ヴァンが放ったのは正拳突き。だが、直接殴るには三人の異世界勇者との距離は離れすぎていた。


 だから少年達は油断した。


「ふん、何をやってがはああああああああ!?」


 中央にいた少年が苦痛の悲鳴を上げる。


 ヴァンの正拳突きの真っ正面にいた少年、その腹部に拳大の穴が開き、血が噴き出す。【悪魔の腕】は距離を無視して少年に暴力を届けたのであった。


「まずは一人」


 怒りに燃える男の声が店の中に響く。


〇〇〇


「よくも! 神届物【色彩華】!」


 ポケットから赤い絵の具を取り出してヴァン達にぶん投げる少女。絵の具は少女の手を離れた瞬間花火のように燃え上がり、火花を散らしながら悪魔喰いの二人に襲いかかる。


「【希望は(ホープ・イズ・)世界の(アトジエンド・)果てに(オブ・ザ・ワールド)】」


 ミネルヴァが手をかざす。それだけで彼女の持つ最強の結界が構築され二人を守る。


「やっぱり堅そうね! コウタロウ! あなたは右から! 私は左から行くわ!」

「分かった!」


 左右から挟撃するべく、異世界勇者が回り込むように走り出す。


「ヴァン……そっちよろしく」

「任せとけ」


 ミネルヴァが左側の、ヴァンが右側の異世界勇者を迎撃するべく駆け出し、


「神届物【万物変化】」


 死んだはずの少年から声が聞こえ、地面から隆起した棘がヴァンの右足を、ミネルヴァの左足を貫いた。


〇〇〇


「え?」

「なん……だと?」


 突然足下から生えた棘に足を貫かれながらも悪魔喰いの二人は目の前の異世界勇者を警戒し、急いで棘から足を引き抜くとその場から撤退。止血しながら状況を把握する。


 【万物変化】という神届物はヴァンが腹を貫いたはずの少年の能力だ。彼の失血量は確実に死ぬに値するはずだった。


 事実、ミネルヴァが今見てもその少年は死んでいた。


 ただし、そのうつろな目で悪魔喰いの二人を見つめ、その2本の足でしっかりと立っていたが。


「まさか……死体使い?!」

「趣味悪すぎるぜ……」


 死体使いがいる可能性に思い当たる二人だったが、一息つく時間は無い。二人の異世界勇者が予定通り左右から挟撃を仕掛けてくる。


 左右からの刺客、死体の勇者、まだ見ぬ死体使い。ヴァンとミネルヴァの意識は十分に撹乱されていた。



「神届物【我、節制の道を貪り尽くす】」



 その絶好のタイミングを見逃す敵ではなく。


 店の天井を突き破って、遥か上空から、二筋の閃光が悪魔喰いの二人に襲いかかった。


 異世界勇者たちに囲まれて、そちらを警戒していたミネルヴァとヴァンは、突如天井を突き抜けて襲い掛かってきた光の攻撃に気づくのが遅れる。


 とっさに動けたのはヴァンの方だった。最初異世界勇者の攻撃からミネルヴァを守ったように再び彼女を引き寄せ、抱きしめる。


 そして二人に向けて放たれた攻撃をその身に食らうのであった。


〇〇〇


「倒せたかな? どう思いますか? 【節制の使徒】様」

「ふふふ、私の一年分の魔力、効かないようでは困る」


 二筋の光の攻撃により倒壊した店の外(・・・)、高級な飲食店が立ち並ぶその通りで一人の壮年と一人の少年が立っていた。


「確かにそうですね。それに、僕の作戦が決まってくれたようで何よりです」


 少年が呟く。彼の作戦は最初の異世界勇者たちを捨て駒にして注意を奪い、散漫にして、そこに、隣に立つ【節制の使徒】の能力をぶつけるというものであった。


「しかし、あの三人は君の友達ではなかったのかな? 一人は死んで、残り二人も倒壊した店の中だけど」

「いいんですよ。僕の【死体使い】の役に立てるんです。むしろ光栄に思ってほしいくらいですよ」


 自信満々にそう宣言する少年。【節制の使徒】はその様子を横目に見ながら倒壊した悪魔喰いの店を眺める。


「勇者よ。どうやら倒れてくれなかったらしいぞ」

「あれ? 失敗してましたか」


 直後、倒壊した店の瓦礫が吹き飛び、一人の小柄な少女が土煙の中立ち上がる。


「許さ……ない。神届物【絶望(ディスピア)(ウィル)――」


 服を真っ赤な血に染めながらミネルヴァは叫ぶ。だが、その叫びも途中で遮られる。なぜなら太い腕が首を絞めるがごとく握りしめてきたからだ。


 その腕に覚えがあったのだろう。後ろにいる腕の主の名前をミネルヴァはかすれる声で呼ぶ。


「ヴァ……ン……」


 死体となり、敵の操り人形となった恋人を思い、その彼に首を絞められながら彼女もまた異世界勇者の魔の手に堕ちるのであった。


〇〇〇


「まあ、作戦は成功ですかね」

「そのようだね。ミネルヴァ・アルトリア。ヴァン・アルトリア。どちらも正面から撃破するにはなかなか厳しいが今回のように冷静さを欠いてくれていればこうもあっけないとは」

「ミネルヴァさんの方が冷静さを欠いてくれていてよかったですよ。死体使いがいるって予想していたのにそれを忘れて僕たちの方に攻撃を仕掛けようとするなんてね。死体になったヴァンさんに対する警戒が先でしょうに」


 死体を歩かせながら少年と壮年は王都に戻る。後ろに三人の異世界勇者の死体と二人の悪魔喰いの死体を引き連れて。

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