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道に咲く華  作者: おの はるか
私は、知恵の道に何を見る
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孤児院防衛編 壱

「しっかしよ~。いきなり転移させられるわ、異世界勇者とやらに襲われるわで大変だったぜ。なんで神届物(ギフト)なんてもってやがったんだよ。あれか?! もしかして俺様が倒した奴らも持ってたのか?」

「ほんとだよ。ボクもまた死んじゃったじゃん。おかげで喋れるようにはなったけどさ」


 暗い夜の森の中で二人の少女がぼやく。一人は紫髪の少女ジギタリス。もう一人は白と黒の髪を持った少女スノードロップだ。


「スノーはいいだろ。喋れるようになったんだから。ホントにどういう理屈なんだよ。死んだら言語がめちゃくちゃになってもう一回死んだらまた喋れるとか」

「リナ母様曰くショック的ななんちゃらとか言ってたよ。というかジギちゃんたいして戦闘してないじゃない」

「まあな、この程度俺様の力なら戦闘すら起こらねえよ。さすがに神届物とか言い出した時はどうなるかと思ったが」


 そういってジギタリスは足元に目を向ける。そこに転がるのは二人分の死体。片方は体中がただれ、目を背けたいほどに痛々しい外傷を負っており、もう片方は首を絞めた痕がはっきりと残っている。


 どちらも異世界勇者だった(・・・)ものだ。


 ジギタリスとスノードロップ、二人が転移させられた先で襲い掛かってきたのは二人の異世界勇者の男女だった。孤児院の関係者だと確認されたのち、問答無用で襲い掛かってきたのだ。結果は見ての通り、異世界勇者二名の死亡で終わったが。


「しっかしな~、ここ何処だ? 孤児院の近くだったらいいんだけど」


 ジギタリスがきょろきょろと周りを見渡すが周りは高い木々に囲まれており、孤児院が見えることもない。はぁ、とため息をつくと隣の少女に向き直る。


「なあ、方向探知系の魔法とかスノー使えねえか?」

「あのね……ボクもジギちゃんと同じ一芸特化なの。できるわけないでしょ」


 そういうと呆れたようにジギタリスを見るスノードロップ。だが、次の瞬間目を見開くと一点の方向をじっと見つめる。


「スノー? どうした?」

「あっち……」

「なんで分か……まさか!」


 狼狽するジギタリス。スノードロップは冷静に告げる。


「あっちで……誰か死ぬ……」


 スノードロップの右目には涙が一筋流れていた。


〇〇〇


「これ、殺しちゃっていいかな!」

「ま、まってくれえ!!」


 蛇腹剣を振るいながらアジアンタムは他の義兄姉に問いかける。


「もういいんじゃねえかな……」

 と、獣人少年ダンダリオン。


「やりすぎはよくないと思うわ……」

 と、獣人少女セタリア。


 彼らの目の前には体中をアジアンタムの持つ蛇腹剣によって切り裂かれ、倒れ伏している異世界勇者の男女が一組。足の腱などを的確に切られ、思うように動けないのだ。


「そっか……それもそうだね。よし、じゃあ尋問だ」


 そう言うとアジアンタムは動けない異世界勇者たちに近づいていく。


「くっ! 神届物【炎神の吐息】!!」


 近づいてくるアジアンタムに対し、動けないながらも顔を向け、炎を吐き出す少年。

 放たれたのは万物を消し炭にできるであろう高熱の炎。至近距離のアジアンタムに避ける時間も水の魔法で相殺する時間もない。

 いや、あったとしてもその炎は神届物による能力である。水魔法で相殺するにしてもそれなりの実力が必要だ。


 だが、その炎はアジアンタムに触れるとその瞬間にあらぬ方向へと飛んでいく。


「くっ……やはり効かないのか」

「だから言ってるでしょ? 完全に制御できてない能力なんてゴミだよ」


 そういって蛇腹剣を振るうと少年の手を地面に縫い留めるアジアンタム。


「ぐあああ」

「レンタ! 大丈夫!?」


 悲鳴を上げる少年に、それを心配する少女。だが、アジアンタムに容赦はない。


「よし、それじゃあ君たちの狙いを聞こうか。なんで私たちを狙ったの? 目的は? 今回の襲撃に加担した人数は?」

「だ、だれが言うもん……ぎゃああ」

「私が! 私が言うからもうやめて!」


 アジアンタムが容赦なく突き刺した剣で少年の手をえぐり、少女が叫ぶ。その声でようやくアジアンタムは手を止め、刀を引き抜く。


「うん? 教えてくれるならだれでもいいよ」

「頼まれたの! 使徒ってやつに! 私たちの能力なら子供くらい倒せるだろうって!」

「それで?」

「孤児院にいるこどもを捕まえたらソルトや魔王に対する牽制になるからって……ひぐっ……」


 日本で言えば高校生のはずの少女が十三歳の少女に怯え涙する。だが、アジアンタムは追撃するかの如く問い詰める。


「それで?」

「そ、それで……ひぐっ……私達異世界勇者十五人が……ひぐっ……クルルシアさんだけは勝つの難しそうだったから……時間停止させて……その間にほかの子供を誘拐しようと……」

「私達を転移させた理由は?」


「クルルシアさん以外に……ひぐっ……強そうな人がいたら……あらかじめ決めておいた場所に転移させて……不意打ちで殺すようにって言われてたの」

「なるほどね……ん? じゃあなに? 今もしかして孤児院には……」


 最悪の想定がアジアンタムの頭を駆け巡る。この異世界勇者たちが孤児院に直接乗り込んだわけではなさそうだ。そうなると孤児院に突入したという異世界勇者たちは一体今何を……


「けっ! この馬鹿どもめ! 今頃孤児院には異世界勇者が使徒様とともにぎぇっ」


 少年が馬鹿にするように口を開き、そして二度とその口が閉じられることはなかった。彼の上顎と下顎はアジアンタムの蛇腹剣によって分かたれ、鮮血がまき散らされた。


「れ、レンタああああぐっ」


 そしてアジアンタムのその凶剣はそのまま少女の頭にも突き刺さる。


「時間なさそうだな。タム、リア、俺の背中に乗れ」


 ダンダリオンが二人の少女に指示を出しながらその姿を変える。全身から毛が生え、体も大きくなり、そして人からかけ離れたものとなる。


「うわあ、久しぶりに見たけどすごいね。ライオンだっけ?」


 その姿を見たアジアンタムがリナから聞いた知識を思い出しながらその背に乗る。セタリアもアジアンタムの後に続いた。


 ダンダリオンの今の姿はライオンそのものだ。屈強な四肢に黄金のたてがみ。細く長い尻尾。大きな胴体には少女二人程度簡単に乗ることができる。


「だったっけな。よし、乗ったな。家は……あっちか」


 匂いを辿り、ダンダリオンはその巨躯に二人の少女を乗せて孤児院に向かうのであった。


〇〇〇


「先行して入ったのはミナトとカイヤとミトだったっけ?」


 孤児院の玄関前、そこに八人の少年少女と一人の長身の男性が佇んでいた。少年少女はシャルトラッハ王国の学校の制服に銀の腕輪を、男の方はまるで神父のような修道服に身を包んでいる。


「いいよな。ミナトが気配完全遮断でカイヤが時間凍結だったっけ? エロいことし放題だよ」

「ちょっとタクト! そんな話しないでよね」


 少し怒ったように少女が少年を怒鳴る。そしてそれを仲裁するように長身の男が割って入る。


「はいはい、皆さん、落ち着いてください。それでは手順をおさらいしますよ。今現在この元魔王城には魔王の子供ともいえる存在がいます。今回の任務はその彼らを捕獲することですね。ただし注意してください。彼らも魔王に育てられた、いわば精鋭。気を抜くと年下であろうとあっさり殺されますよ」

「大丈夫ですよ。【嫉妬の使徒】様。俺達だってこの力をもらってまだ半日しかたってないけどもう立派に使いこなせてますよ!」


 得意げに語る少年。その彼を見る男性の目に嘲りの色が宿ることに少年少女は誰も気づかない。


「そうですね。あなたたちは神の寵愛を受けた。子供ごときに下手をうつことはないでしょう」


 そういって孤児院の扉に手をかける嫉妬の使徒。ゆっくりと扉は開かれて……


「共鳴魔法【滅音波】!」

「共鳴魔法【滅音波】!」

「なんだ……?! うわああああああ耳がああああ」


 直後、少年少女たちに上空からの音の災厄が降りかかる。共鳴魔法【滅音波】。とんでもない音量の遠吠えを共鳴させることにより人を死に追いやることも可能な魔法である。


 魔法が止んでも耳に響く痛みに苦しむ少年少女たち。だが、長身の男だけは平然と立っていた。獣の状態のダンダリオンとその背に乗ったセタリア、アジアンタムが地面に降り立つと男は「ふぅ」とため息をつく。


「なるほど、獣人もいましたか。それなら多少遠くに飛ばしたところで無駄でしたね」

「おい、お前が孤児院を狙ったのか」


 ダンダリオンが男に問う。セタリアとアジアンタムは周囲の少年少女に警戒しながら男に視線を飛ばす。


「ええ、そうですよ。魔族ごときが家族ごっこをしていると聞いたのでね。異世界勇者の力試しも合わせてね」

「こいつ!」


 セタリアがうなり耳や尻尾は逆立たせ、怒りをあらわにする。隣のアジアンタムも怒っているのは一緒だ。


「まあまあ、そう怒らずに。今頃先に入った異世界勇者が家探ししているところですから」


 その言葉に三人の子供は状況の悪さを知る。孤児院の中であの食堂にいなかったのは戦闘能力が皆無の子供たちのみ。


「タム! ダン! 私が家の中に入る! その間ここをよろしく!」


 目の前の男にばかり構っていられないと判断したセタリアが孤児院に入ることを決断。それにダンダリオンとアジアンタムも同意する。


「分かった!」

「援護は任せて!」


 そして今度はセタリアがその体を獣のそれへと変える。こちらはダンダリオンのようなたてがみはないがそれでも体は大きく膨れ上がり、敏捷性は高い。


「幻惑魔法【花吹雪】!」

「共鳴魔法【爆音波】!」


 アジアンタムが両の手から、自身の髪と同じ紅色の花びらをまき散らす。実体がないため手で払うこともできない花弁は確実に男の視界を奪う。

 同時にダンダリオンも獣状態の口から咆哮を男に飛ばす。しかも、ただの咆哮とは違いその方向性を限界にまで凝縮された音の塊は男の聴覚を奪いにかかる。


 男の聴覚と視覚が完全につぶれたタイミングを見計らいセタリアが身体強化も施したその四肢で男を迂回するように屋敷に接近。窓を破壊し孤児院の中に入る……


「子供だましですね」

「な!?」

「え?」

「なに……あれ……」


 その瞬間、男の手のから伸びた触手が獣となったセタリアの胸を貫いた。

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