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道に咲く華  作者: おの はるか
私は、知恵の道に何を見る
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開戦編 唐突な襲撃

「う~ん、神様はいらない、か」


 ソルトの宣言を受けて少年ノイバラは目を閉じ、うなりながら首をひねる。だがしばらくすると目を開けてソルトたちを見渡す。


「今僕が考えれたのは三つかな。一つはソルト兄様がどっちかの神に肩入れして一つの神の勢力を潰す。これが一番楽。現状二人の神は拮抗しているんだしね。二つ目、彼らの使徒同士を和解させる。これはあんまりお勧めしないかな。代が変わったらまた繰り返すことになりかねない。三つ目、これは番外かもしれないけど直接神を殺す」

「神を殺す?」


 シャルだけが不思議そうに声を上げる。だが、他の孤児院のメンバーの中で驚いたものはいない。


「ノイバラがいうなら殺す方法があるんだろうな」

『そうだね。私も確信が持てたよ』


 納得するようにシャルの隣のソルト、そのまた隣のクルルシアも発言。


「ど、どういうことなの?」


 一人状況に置いていかれているシャルがソルトにこそっと聞く。


「頭がいいんだよ、あいつは。固有魔法にまで昇華してはいないかもしれないけどあいつの考えや予想は現状における最適解だ」

「あっと、シャルさん、申し訳ないです。一つ一つ説明しましょう」


 ソルトとシャルが話しているのを見てノイバラが慌てたように口を開く。


「一つ目は簡単です。現状神が手を出しているのは全て使徒を通して、あるいは神届物(ギフト)を与えてです。前者は人側の神、後者は魔族側の神です。つまり使徒を一掃してしまえば前者の神は何とかなる可能性があります。実際、使徒全員が途絶えたことはありませんから。そうですよねクルルシアお姉さま」

『うん、間違いない。正義の使徒の記憶をひたすら遡ったが彼、いや、剣だけどね。彼が死んだことはない、常に誰かに憑依して生きていた』

「というわけで彼らを一度全滅させる、というのはかなりアリだと思います。そうすれば神は手綱を手放さねばならなくなる、かもしれない。まだ情報が少ないので断定はできませんけどね」


 自信なさげに語る少年。シャルは納得したように頷く。


「なるほど……考えてるのね……」

『さて、そうなるとやはりどちらかの陣営に味方したほうが楽だろうね。しかし使徒に追われている現状人側につくのは難しい。そうなると』

悪魔喰い(デーモンイーター)と手を組むのか……。魔王の右足と聖剣絵渡さないと協力してくれなさそうだな」

「渡しちゃっていいの? お姉さんの行動が気に入らなかったから邪魔してたんでしょう?」

「シャル……その言い方はひどいぜ……。まあ、間違ってはないんだけどな。魔王が復活するとやっぱり力が支配してしまう気がしてな……」


 悩むソルト。彼が魔王を復活させることに否定的な理由は力が物事を解決してしまうことを恐れてのことだった。


『どっちに着くかはまた今度決めよう。今日はもう遅い。一旦休んでまた後日にでも決めよう。使徒が魔族と争うとしてもそんなにすぐに戦争が起こったりはしないはずだ』


 クルルシアが話を切り上げる。確かに外を見るともう真っ暗だ。焦る必要がない今、夜更かしする利点もないと考えたのだろう。


 ほかの子供たちも椅子から立ち上がり、各自の部屋に変える準備を始める。


『それじゃあ、私も寝るとしま』

「クル姉?」


 突然クルルシアの【伝達】魔法が切れたことに違和感を覚えソルトは彼女の方を振り返る。


 そこには完全に、氷のように固まっているクルルシアが……。


「【空間転移】!」


 直後、聞いたことのない声が彼の耳に届き、ソルトの視界は暗転した。


〇〇〇


 視界が暗転し、浮遊感に襲われるソルト。だが、その感覚も長くは続かず、背中に衝撃が走る。


「痛っ」


 どうやらいきなり空間転移系の魔法でそとに飛ばされ、そして背中から地面に激突したらしい。見渡すと森の中のようだ。その中で開けた場所に彼は転移させられたらしい。


「なんだったんだ……今のは……」


 突然の出来事に頭が追い付かないソルト。しかし、


「きゃあっ」


 上空から声が聞こえソルトが上を見上げると赤い髪の少女が落ちてくるところだった。


「シャル!」


 急いで落下予測地点に走り、間一髪、なんとかその両腕でシャルの細身を受け止めることに成功する。


「ソ、ソルト?! あ、ありがとう……」


 恥ずかしそうに視線を逸らしながら礼をいうシャル。だが、ソルトはシャルと目を合わせようとしない。目を閉じ、周りの気配を探るように深呼吸する。


「ソルト? どうかしたの?」


 不思議そうな表情を浮かべシャルが尋ねる。



 そこに、一本の矢がソルトの背中めがけて放たれた。


〇〇〇


「土魔法【壁版】」


 自身の心臓めがけてまっすぐに飛んでくる矢に対して、ソルトは振り向くこともせずに魔法を発動。地面から板状に土が盛り上がり飛来してきた矢を受け止める。


「だ、誰?」


 矢にようやく気付いたシャルが警戒するように矢が飛んできた方向に言葉を飛ばす。だが、聞こえてきたのは返事ではなかった。


「ちっ! 仕留めそこなったか」


 二人が視界に捉えたのは一人の少年。ソルトは彼の着ている衣服に見覚えがあった。


「その服、シャルトラッハ王国の学校の制服だな……なんで俺たちを狙う」


 服装に見覚えはあるが、彼の顔に見覚えはない。恐らくソルトとは違うクラスだったのだろう。だが、ソルトの質問に彼は顔を真っ赤に染める。かなり怒ったようだ。


「なんでって……お前が魔王の子供だからだよ。魔族は俺たち異世界勇者が滅ぼすんだ。それにお前ら、俺の仲間を殺しただろ! その怨み今晴らしてやる!」


 一瞬なんのことか疑問に思ったソルトとシャルだが、ソルトの妹ジギタリスが四人の異世界勇者を戦闘不能にしたことを思い出す。


「あれって……お前らの方が襲ってきたんじゃ……」

「う、うるさい! 魔族なんて滅びてしまえばいいんだ! そこの吸血鬼も一緒だ!」


 ソルトの冷静な突っ込みに逆上した少年が持っていた弓を構える。彼自身の背丈を大きく超える弓だ。


「神届物! 【百発百中】!!」


 そして彼の手から三本の矢が離れ、ばらばらの方向に飛んだ後、三方向から一斉にソルトに直進。


 いったんは召喚した刀で弾いたが弾かれて矢は再びソルト目掛けて直進を開始する。


「シャル! お前は他のところに!」

「でも! あんた一人で大丈夫なの?!」

「これくらい何とかなる! それよりもほかのやつらが心配だ! 妹たちを探してくれ!」


 そう言われてハッとするシャル。ここで自分たちが襲われているのだ。ほかの子供たちが襲われていない、とは思えない。急いで全身を細かく分けて蝙蝠になると木々の隙間を縫うようにあたりを捜索し始める。


 だが、その会話を聞き、矢を放った少年は笑う。


「へっへっへ。これくらいなんとかなるだって? 俺の神届物はな、狙った獲物は逃がさないんだよ。お前が刀で打ち返してもまた方向転換してお前を殺そうとするぜ! ほら!追加だ!」


 さらに少年は、でたらめに弓を引き、矢を放つ。どんな方向に飛んでいった矢も必ずソルトの方向へ襲い掛かる。暗い夜、それも森という視界が悪い場所で、全てをよけ続けるのは難しい。


 だが、


「それは弾いたか、避けるかしたときの話だろ」


 そう言うとソルトは一本、二本と自身のすぐそばを通った矢をつかみ取っていく。その手に漆黒の魔力を覆わせながら。


「な?!」


 夜の闇に少年の驚く声が響き渡る。飛来する矢の速さは放った瞬間から変わっていない。手で直接触れれば擦り傷どころでは済まないし、そもそも目で追うのも異世界勇者の彼にとっては難しい。


 黒い魔力で覆った左手ですべての矢をつかみ終わったソルトは襲い掛かってきた異世界勇者に歩み寄る。


「こ、こっちに来るんじゃない!!」


 氷魔法で素早く矢を錬成し、再度放たれるのは七発の矢。ソルトの正面から、後ろから、真上から、右から、左から、あらゆる方向からかれに襲い掛かる。


 だが、


「疾風よ、わが剣に、力を与え、暴虐を退けよ。【塵風(ちりかぜ)】」


 ソルトは自身の剣に風を纏わす。そして刀を一閃すると纏った風が次々と矢を絡めとる。一本、また一本と風に捕まり、再びソルトの方向に飛ぼうとしても風がそれを抑え込み、刀に密着させ、強制的に矢の持っていた運動の力を奪い取る。


「そ、そんな……」

「即座に矢を氷で作ったのは褒めてやるよ。だけどな、こちとら勇者だ。神届物もらったからって調子に乗るんじゃねえ」

「ひ、ひい!」


 じわじわと近づいてくるソルトに恐怖を隠せない少年。とうとうソルトの刀の間合いに入ると体をがたがたと震わせ出す。だが、その様子には目もくれずソルトからの質問が飛ぶ。


「おい、お前ら、後何人いるんだ」

「油断したな! 俺だって弓だけで倒せるとは思ってねえ!」


 だが少年は勢いを取り戻し、質問には答えず右腕に装着していた小型の弓をソルトに向ける。矢は装填済み。避けられるはずのない超近距離。少年は勝利を確信し二やっと笑う。


「喰ら……いぎゃあああああああ」


 しかし、少年が小型の弓を構えた瞬間に、ソルトは暴風を纏う刀を相手の手に突き刺す。風が発射された矢諸共少年に襲い掛かり彼の手を容赦なく削っていく。


「悪いな。悪意はわかるんだよ。不意打ちも含めてな」


「あ、ああ……」


 痛みで少年が気絶したのを見届けるとソルトは踵を返し弟妹の気配を探って他の場所に向かうのであった。


「皆……どこに飛ばされたんだ……」



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