告白
京都観光をする内に、あっという間に夜を迎えた。なので次の場所で最後にしようと思い、俺はタクシーを捕まえた。
「将軍塚までお願いします」
「将軍塚ですねー、分かりました」
何でも、これから向かう将軍塚というのは歴史的背景みたいなのはよく分からないが、展望台からの夜景が綺麗だとかでかなりの穴場である。今だと清水寺のライトアップを見に多くの人が流れるので全く並ばずに入れるとも聞いた。
「いやあ、お客さんも中々の通だね。あそこは夜景もさることながら紅葉も中々の物でね、彼女の一人や二人でも連れてくりゃあロマンチックにもなるんだろうけど。お兄さんは見たところモテそうだけどそこのところどうですか?」
男一人で将軍塚に行く客など珍しいのだろう、運転手は早口でまくし立てる。
「まあ、ぼちぼちですかね」
実は俺以外に四人乗ってると言う訳にもいかないので当たり障りのない返答をした。
そうこうしている内に、目的地にあっという間に着いて、俺(と空気たち)は将軍塚のある東山山頂に降り立った。
「寒っ!」
そう叫んだのはカオリだった。
「山の上だからな。でも確かに冷えるな」
よく晴れていたとはいえ既に晩秋、冬はすぐそこまでやって来ていたのだから無理もない。
「もうパパっと回っちゃおう」
カオリは気だるげな顔をして言う。
「お前なあ。少しは風情を感じる事はできないのか……と言いたいところだが、帰り新幹線の時間を考えるとそうもいってられないな」
結局、カオリの提案を飲んであまり長居はしない事にした。
中は夜の暗さが演出した紅葉の木々のミステリアスさによって魅力に拍車がかかっていた。真ん中ら辺に差し掛かり、件の展望台というのが見えたが、
「わ、私は遠慮しておく。高い所は苦手だ」
と言うチヒロと、
「じゃあボクはチヒロがどっか行かないように見張っとくよ」
それの監視を買って出たアリスによって、登るのは俺、カオリ、ヨウコの三人になった。とはいっても、二人とも足が震えていて、高い所が苦手だなんて思われたくないという変なプライドが見て取れたが。そんな事だから結局ヨウコも怖じ気づいて引き返し、カオリと二人で上まで登った。
「うわあ、綺麗。ここまでだと思わなかったから独占したみたいでヨウコにも悪いわね」
「そうだな」
珍しくカオリが素直な態度を取ったが、そう言わざるを得ない美しさだった。そこから一望できる京都の町並みの美しさは言い表す言葉が無いとさえ思えた。
「ねえ、司」
「なんだ……お前、また体が透けて――」
言い終える前だった。
俺の唇に柔らかく温かい物が触れた。それを感じてから数秒してやっと、カオリと唇を重ねた事を理解した。
「カオリ……お前、何を」
「司、私はあなたが好き」
俺の頭の整理が追い付かない内にカオリは更に告白する。俺も何とか現状を理解して、カオリの真っ直ぐな眼光を向けられながら考え、答えた。
「すまん、お前の気持ちに答える事はできない。俺は人で、お前は空気だ」
「そう……そうよね。ごめん、今の忘れて」
「まあ、待て。何で急に」
カオリはしばらく逡巡して、口を開いた。
「今言わなきゃ、もう二度と言えない気がしたから」
カオリは何か含みのある口調で言う。
「どうした? まさか、お前の体が透けているのと関係あるのか」
「……明日話すわ。この話はやめにしよ?」
「……分かった」
辛そうなカオリを見て、俺もこれ以上聞くまいと話を切り上げた。
「司、記念写真撮ってよ! 折角だし」
カオリは笑顔を取り繕い、空元気な風で言う。
「いいけど、お前写んねーぞ?」
俺も笑ってみせた。
「いいから。こういうのは気持ちが大事なのよ」
カオリとの会話が楽しくない訳では無かったが、その日俺の心にかかった雲は晴れなかった。




