秋、食欲の秋
「……つまり、見た目小、中学生くらいの自称空気少女が家に居座っていたと」
「ああ」
親父は偉そうに椅子にふんぞり返り、俺にそう確認きた。いきなり訪ねてきて何様のつもりだろうか。
「何だ、そんな事か! はっはっは! じゃああれだな、実を言えばここに来たのもお前ときのこ狩りに行こうと思ったんだが、せっかくなら皆で一緒に行くか」
簡単にこれまでのあらましを話したら、親父は思いの外すんなり、というか俺よりも早く現実を受け入れた。まあ、説明する手間が省けていいんだが、親父がいい年してこんな夢みたいな事を本気で信じるなんて馬鹿なのかと疑う。
「分かってくれたならいいけどさ、何でまたきのこ狩り?」
「そりゃあ、秋だからよ! 食欲の秋、運動の秋。山登りしながら秋の味覚を手に入れるんだ。一石二鳥だろ?」
「それで手頃な山を調べろってか? はいはい、分かりましたよ。敬老ね、おじいちゃん」
そう嫌味っぽく言ってみたが、親父は頼んだと告げてきて気にも止めない様子だった。ただ何も考えてないだけの癖に親父の方が上手みたいで無性に腹が立つ。
「じゃ、楽しみにしてるぞバカ息子!」
親父は嵐が過ぎ去るが如く帰っていった。
***
「よーし、行こうか」
後日、親父のせいで半ば強制的にきのこ狩りに連れてこられた。一緒に来た空気ズも美味しいきのこが食べられると聞いてそわそわしている。
「私はきのこは苦手なんだが」
「そういうなよ、チヒロちゃん。これなんか綺麗な紫色で美味しそうでしょ」
「あんまり変なのは取るなよ……って言ったそばからチヒロに何食わせてんだ!」
親父は明らかに食用ではない色鮮やかなきのこを嫌がるチヒロに押しつける。
「いや、空気だから毒きのこでも大丈夫でしょ? だから安全確認にと思って」
「お前はこいつらを何だと思っているんだ。というか、空気なんだから人間と同じ症状が出るとは限らないだろ……」
どこまで頭が悪いんだか、この男は。
俺はチヒロの断末魔を聞きながら、親父みたいな大人にはならないと誓った。




