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暑さをしのごう

お久しぶりです。

長らくお待たせしましたが、そのかいあって私的には上質なものを書けたと思います。

それではお楽しみください。

「やっぱり人多いなー」

「しょうがないわ、夏だもの」


 辺りを見回して言う俺に、カオリが答えた。カオリはビニールシートに寝そべりぐったりしている。

 ホットプレートの如く熱された砂浜には無数のビーチパラソルが立ち並び、繰り返し寄せては返す波音は無限に響く。世間一般の学徒たちは長期休暇を利用し、この場に避暑にやって来ているのだ。


「そうだよなあー、海だもんなー」


 正直、人混みのせいで避暑どころか余計に暑苦しかった。



 ***



 先日。


「司、暑いわ! 勉強の邪魔しちゃ悪いと我慢してたけど、もう限界! エアコンぐらい無いの?」


 カオリは夏の暑さのせいでイライラしているのか、怒鳴り散らす。エアコンなんて何を贅沢な、扇風機があれば充分だろう。俺はエアコンとか苦手だから、カオリには我慢して欲しいものだ。


「はあ……大体お前二酸化炭素だろ。熱の放出とかすりゃあいいじゃん」


 二酸化炭素の特性に熱の吸収、放出があるとかどこかで聞いた気がする。それが温室効果ガスたらしめる所以(ゆえん)だとも。空気の分際で立派な体温調節機能が備わっているのに何を馬鹿な事を言っているんだ、こいつは。


「ほう、では人間様は発汗による体温調節のみで涼しくなれると?」


 そうは言ってないだろう、と俺が反論する前に、ヨウコが俺の前に立って言った。


「カオリ、地球を暑くする片棒を担いでいると言うのに、司さんに何という悪態を……と、普段なら言いたいところですが、今回ばかりはそうもいきませんわ。エアコンをつけてなどと図々しい事は申しませんが、一日ぐらいは暑さを忘れてもいいのでは?」


 ヨウコまでこんな事言い出すとは……重症だな。


「しょうがない、行くか! 海!」



 ***



 ……という訳で今に至る。

 なのに、どういう訳か言い出しっぺのカオリは海に入るでもなく、ここでだらだらしているのだ。


「お前も海で遊んでくりゃいいのに」


 ヨウコとアリスは実体化して初めての海にはしゃいで、浮き輪をしながら波に流されるのを楽しんでいる。途中、ヨウコが波でひっくり返った時のアリスの慌てっぷりといったらそれは愉快だった。結局、ヨウコは自力で戻っていたが。

 チヒロは砂浜で豪華な砂の城を作っていた。てか、もはや建築の域だな。どうやっているんだ、あれ。後で作り方教えて貰おう。


「バッカみたい。私は家を涼しくして欲しいって言ったのよ。それに、どうせ来るならもっと涼しいところが良かったわ」

「ごめんごめん。じゃあ今度はフランスにでも連れてってやるよ」


 頬を膨らましてすねるカオリを宥める様に、俺は彼女の頭を撫でる。一方カオリは、不可解といった具合で俺に訊ねた。


「何でフランス?」

「避暑地と言えばコート・ダジュールだろ?」

「知らないわよ、そんなの。ま、ここよりはマシなんでしょ? 約束よ」

「ああ、約束だ。けど俺忘れっぽいからカオリが思い出させてくれよ。じゃ」


 俺はカオリに小指を差し出す。


「何これ?」

「指切りだよ。約束のまじない。カオリも小指出して」

「こうかしら」

「ああ。嘘ついたら針千本のーますっ、指切った、っと」

「怖っ!」


 俺が結んだ指をほどく前に、カオリものすごい勢いで振り払った。


「冗談だよ。その位の気持ちでお互い覚えておこうって事」

「なーんだ、びっくりした。ところで……ハリセンボンって食べれるの?」

「そっちのハリセンボンじゃ無いからっ!」


 どうやらハリセンボンを丸飲みと勘違いしていた様だ。それはそれで怖いけど。カオリは空気ズの中では割と常識人だが、やっぱりどこかおかしい。


「よしっ、じゃあとりあえずフランスは置いといて、今は遊ぼうぜ!」

「ああ、ちょっと!」


 俺はカオリの腕を引っ張り、空気ズに混じった。




「ああ! 私の砦が!」

「やべ」


 勢い余ってチヒロの城を蹴り崩してしまった。


「……重罪だぞ。腹を切れ! 死んで詫びろ!」

「ごめんなさーっい!」


 チヒロに長時間追い回された。申し訳無いと思ってる。

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