夏と言えば浴衣だよね
張り切って遊びに行こうと出掛けたものの、どこへ行っていいのやら。
「久しぶりにゲーセンでも行くかな」
俺はふらふらとさまよった挙げ句、無しか生み出さない暗黒地帯に行こうとした。今日こそ全自動硬貨回収機、もといクレーンゲームにリベンジしよう。
俺は昔、戦車のラジコンを取ろうと三千円を散財し、結局何も取れなかった反省など微塵にもしていなかった。ま、今はたっぷりお金があるから三千円なんてあぶく銭だけどね。
「よーし! 待ってろ、全自動硬貨回収機! 今日こそギャフンと言わせてやるぜ!」
その時、散財のために奮い立つ俺の足を止めたのは、大きな爆発音だった。
「……そういえば今日は近くの公園で夏祭りがやっていたな。懐かしい行ってみるか」
こちらの方が金を出せば物が買える分よっぽど生産的だ。価格はぼったくりだけども。
「あ、茨木さんじゃないですか。こんにちは」
公園で見慣れた顔に出会った。
右手にわたあめ、左手にかき氷、口にはフランクフルトをくわえた彼は、えーっと……。
「やあ、佐藤君」
「斎藤です! あ、フランクフルトが!」
彼が怒鳴ると、口からフランクフルトがこぼれ落ちた。
「あーあ、そんないっぺんに買うから」
バイトの時はお堅いけど、祭りを満喫している様子を見ると結構茶目っ気もあるみたいだ。
「ああー、僕のフランクフルトがー! しょうがないですね。さておき黒田さん、どうせなら一緒に回りません? 萩野店長や日比谷さんもいますよ」
「ああ――」
大丈夫、と返事をしようとすると、誰かに服の裾を引っ張られた。振り返ってみれば、そこには浴衣姿の空気ズが勢揃いしていた。
(お前ら! 何でこんなところにいるんだ!? てか、その浴衣どうした)
「ふふん、綺麗でしょ」
と、カオリ。くるりと回って鮮やかな浴衣を見せる。
「私は止めましたのよ」
申し訳無さそうに言うのはヨウコだ。そうは言うものの、彼女もちゃっかり浴衣は着ている。罪悪感があるだけ普段よりはマシか。
(いや、綺麗だけれども! そういう事を言ってるんじゃなくて、どうやって手に入れた!?)
「ほら、この前ヨウコがセルフレジで買い物してたじゃない? それで気づいたんだけど、要は自分たちで商品をレジに通しちゃえばいいのよ。と言う事で、司のタンス貯金から四人分買っちゃいました!」
カオリはてへっ、と可愛らしく舌を出す。もちろん、許さないよ。勝手な行動ダメって言ってるしね。俺はカオリの頭をぐりぐりと攻撃する。
「あ! 何するのよバカ!」
「あ、こら暴れんな」
格闘する俺に、斎藤君だったけ、彼が肩を叩いた。
「あの、茨木さん? どうしたんですか?」
「あ、ああ、何でも無い! 俺そこまで長くいないから皆で楽しんでよ」
「はあ、分かりました」
危ない危ない、また誤解を生むところだった。全部こいつらのせいだ。
「ねえ、司。私たちはどうするの?」
「浴衣なんて中々着る機会無いだろ。仕方無い、一緒に回るか!」
「うん!」
カオリも、他の三人も満面の笑みでうなずいた。
「あー、あまりバラけるな! はぐれるだろ! チヒロ! お前いつまで射的やってんだ!」
全く、自由奔放な空気共のせいでまるで幼稚園だな。見た目は小学生か中学生だけど。
せっかく肩の荷が降りた気分だったのに、結局いつもの日常だ。
けれど、悪く無いな。こっちの方がずっと楽しいや。




