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能力の発動と共に異変が起きたのは椋ではなく、出丘の方だった。
仰向けで気絶していた出丘の体が輝きながら宙に浮き仰け反る。
浮遊している出丘の胸元、ネックレスがそのさらに上に浮上し、そこから2種類のわずかな光が漏れだす。
一つは黒。鈍く光る光と言えるのかどうかも微妙なものだ。
もう一つは水色。きれいなとってもきれいな水色だった。
(黒いのが《悪魔》で、この水色が出丘本来の能力が詰まったもの…。こんなにきれいな色をしてるのに…どうして…)
その二種類の光が出丘のもとを離れる。
椋の天然結晶の輝く星空のような金色の粒が光を放ち、そこから伸びる光の手のような物が出丘の元に向かい、黒色の光だけを器用につまみ再び椋の結晶に戻っていく。なんだか少しグロテスクな光景だったが、それが終わるのをジッと待った。
背中の切り傷が今頃になって痛くなってきた。浅いが大量の傷があるため、これが終わったら病院に行かなきゃいけないな、と思いながら今から診察時の怪我の理由の言い訳を考えておく。
出丘の謝罪の言葉など聞く前に終わってしまったが、少々確かめたいことが椋にはあった。
椋は出丘のもとに向かい、残った水色の光を両手ですくい上げ、そのまま胸元にそっと引き寄せる。
光はごく自然に椋の結晶の中に吸収されていく。
出丘のを吸収するのはどうかと思ったが、こんな外道から、どうしてこんなにきれいな結晶光が出るのか気になっていたのだ。
光がすべてなくなると同時に、出丘がゆっくりと地面に背中をつけた。
ふとあることを思いフールに尋ねる。
「この能力で吸収した能力はどうやって使うんだ?」
愚者から呆れたような声が飛んでくる。
「あの時は自分で勝手に使ってたではないか。」
「あれは!必死だったから…って…あれ?」
なんでこんな言葉が出たんだろう。真剣にそう思った。フールからその当時の話は聞いたものの、彼自身が思い出せないようにしたと言っていたはずだ。
「まぁ、自分の思いのままにやってみろ。どうせまた次の機会が来るまで封印するのだから。」
フールの発言に少し、いや結構、いやかなりの驚愕を示してしまった。
「また使えなくなるのか?これ……。」
虚しさに近い物が椋の心を満たしていく。
「能力があったって使いこなせなければ意味がないだろう。」
フールから飛んでくる、反論の余地がない短絡的な正論に思わず黙り込んでしまう。
「んじゃあ、いっちょやってみるか!」
真琴曰く、エネルギーの流れがなんたらを少しイメージしながら、先程『愚かな捕食者』を使った時の感覚を忘れないように、静かに結晶に意識を集中させる。
先程と違い、結晶からこぼれるのは優しい水色の光だった。




