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『理解不能の蛇槌』と言ったか。
見た目は完璧すぎるほどの鈍器だ。いや、正確には柄尻に短い刃がついている。
いくつか不思議な点があった。
吹っ飛ぶほどの重たい攻撃のはずなのにそんなに痛くない。
メイスというだけあってあれは鈍器、内部を粉砕するための武器だ。
ではなぜ椋の側頭部に浅い切り傷があり、そこから血が流れてくるのであろうか?
柄尻で切った可能性もなくはないが、確かに衝撃は一度だけだったはずだ。
傷を抑え出血を確認し、大したことではないと判断すると、再び臨戦態勢に入る。
後ろをふりっむくとそこには壁どころか床すらない。1歩下がれば転落してしまうであろう。(今の椋なら落ちても難なく上ることができるわけだが)
一度フールに問う。
(フールはあの鈍器が何か知ってるか?)
見た目からして相当禍々しい。なんで椋自身側頭部をたたかれたのに無事なのかがわからないほどに。
見た目と威力が矛盾しているというか、不自然なのだ。
フールからの答えは速攻で飛んできた。
『知らん。我は前にも言ったはずだ。支配能力意外の能力は《悪魔》の憑代によって変わると。あの槌矛は出丘のみが扱えるものだろう。』
予想はしていたが、その通りの答えが返ってくる。
(出丘は《悪魔》がくれた能力だっていってなよな…。という事はアイツは自分自身のナチュラルスキルをまだ隠し持っているのか…。)
今思うと複数の能力所持とは結構恐ろしいものである。
もし出丘があの蛇槌以上に厄介なナチュラルスキルを持っていたとして、それを同時に行使されれば状況は不利になるだろう。
椋にも『愚かな捕食者』と呼ばれるナチュラルスキルが存在するらしいが、いまはフールによって封印されている。
『光輪の加護』との並列使用は相当危険らしいので、今はフールの指示に従い、『光輪の加護』だけで乗り切る。
とりあえず今はあの蛇槌の能力がどんなものなのかを見極めなければならない。
今椋には両手に3つずつ、両足には2つずつの光輪が残されている。
まだ戦闘は始まったばかりだ。
出丘から発せられる狂気じみたオーラがだんだん強力になっていく気がする。
しかしそんなものでひるんではいけない。
ここに着いたときに覚悟は決めていた。
戦って勝つ。と。




