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2062年3月27日
大きな戦いが控えているといっても、こちらから仕掛けることはできない。
こっちは向こうの名前と出没地は知っているが、それ以外の正確な情報を持っていない。
だが向こうから仕掛けてくるのを待つのも癪に障る。
それまでの期間にできる限りの情報収集を行うのがセオリーというものだ。
しかし相手は学校周辺を占める集団のリーダー、下手に嗅ぎまわっているとばれればやっかいなことになる。それにとりあえず今は足も直さなければならない。
2週間もかからないとのことだったのでとりあえず待つしかない。
今日はもう退院手続をすまし、一人で(一人といえるか微妙だが)松葉づえを突きながら帰宅している途中だ。
非常に歩きづらいことこの上ないが、出丘宗への対抗策を考えながら、ゆっくりとした歩みを進める。
フール曰く
『奴はまだ最初に2人を支配下に置く能力を1人分しか使っていないはずだ。上に近いほど支配力が増す能力だから、最終的にその枠に我とオマエを押し込もうとするだろう。まぁ、そこは勝てば問題ないのだが…気になるのは《悪魔》の適合者が持つ天然結晶の能力と、《悪魔》から与えられている能力だ。どのような能力、もしくは得物を持つかわからない相手に対し、対策をくむというのは我にでも難しい。』
とのこととだった。
(なあ、フール。)
《愚者》に呼びかける。
いつもながら速攻で返事が返ってくる。
『なんだ?』
(君が時々言ってる目的ってのはまだ教えてくれないのかい?)
最近気になってしょうがないのである。
まだ教えられないとのことだが、それはいつ教えてもらえるのか、果たして自分に実行できることなのか、不安ばかりが積もるのである。
『気になるのか?』
なんだか教えてくれそうな雰囲気になっているので、がっつきすぎないように
(うん…まぁ…ちょっとだけね。)
と遠慮気味に言う。
しかし《愚者》にそんな気遣いは逆効果だった。
『ちょっと気になるくらいなら我慢しろ。』
(はいっ。嘘です!すっごい気になってます。お願いします、教えてください!)
『そうならそうとはっきり言え。』
なんだか怒られ少々気まずくなったが、心の中にいるその相手からどうのがれろというのか。そんなことでうじうじしているうちに《愚者》が続ける。
『我の目的は今からお前たちがすることに少なからず直結している。そういったな?』
(ファミレスでの食事中かな?言ってたね。)
『我の目的は《我ら》が憑りついている人間から、少しそいつのエネルギーを集めることにある。』
(………どういうことだ?)
《愚者》がさらっと告げる内容は、あまりにも過酷なものだった。
『簡単な話だ。オマエが、《我ら》の適合者と接触し、『愚かな捕食者』を使い、少量のエネルギーを吸収する。それだけだ。』




