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 4人は今病院から最短距離にあるファミレスで食事をしていた。

 とりあえず全員分のドリンクだけ頼み、全員で乾杯をする。この場は優奈が仕切っている。

 「では!お姉ちゃん含め、椋さん沙希さんの合格を祝って、かんぱ~い!!」

 「乾杯!」

 「かんぱい。」

 「かんぱ~い!」

 と椋、沙希、真琴が続く。

 

 あの後フールは真琴に拉致され、今も彼女に優しく握られている。

 『移り気な旅人』で召喚されたフール自身に特別な能力は宿っていないため、何の抵抗もできずに彼女に捕まるしかなかった。

 一応、椋とフールの会話に言葉を発する必要がない。彼の声は常に椋の脳内に響いているのだ。

 そんな彼の悲惨な叫び声が常に聞こえてくる。

 (可愛そうに……)

 と真剣に憐れむが

 『そう思うならさっさと助けろ!』

 という声が脳内に響くが聞こえないふりをして4人の会話に戻る。

 

 こんな何気ない会話を楽しんだのはいつ以来だろうか。

 ほかの誰かと外食をするのはいつ以来だろうか。

 こんなに心の底から笑ったのはいつ以来だろか。

 うれし涙が流したのはいつ以来?いや、初めてかもしれない。


 真琴の優奈に対する過剰な自称スキンシップも、慣れてしまえば実に微笑ましいものだ。

 その後の優奈が言葉で姉の心を折るところも、その後真琴がフールに(一方的に)救いを求めて、彼に頬ずりしているところも。

 何もかもが椋には輝いて見えるのだ。

 

 こんな平和な日常がいつまでも続いてほしい。

 中学校の苦しくつらい生活をようやく抜け出せたのだ。


 それを少し沙希に見られてしまったのか、隣に座っている沙希が椋の左手を握ってくる。

 沙希は他の二人と話しているが、椋の手を放すことはなかった。

 とても柔らかい、皮膚と皮膚が触れ合う暖かい感覚が椋の心を癒す。

 

 《愚者》の能力はすごいのかもしれない。

 これまでのように、無能として見られることももうないのだ。

 だが椋にとって大切なのはそこではない。

 大切な人を守れる力がここにあるという事実が椋にとって一番重要なのだ。

 

 この明るい雰囲気のこの場ではとても言えることじゃないが、沙希にもフールから聞いた10年前の事件の話もしなければならないと感じていた。

 

 そんなことを考えていることを知ってか知らずか、フールがその服をスパゲッティのソースで汚しながら、真琴から逃れこっちに向かって走ってきた。

 彼は恐怖の表情に染まっている。

 そんな光景を見ていたら、つい笑顔がこぼれてしまう。


 (この幸せは俺が守るんだ。何があっても。)

 そう心に誓う。

 この後また一つ大きな戦いが残っているのだから。

 

 


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