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……………………………………、う?
「…………椋?」
ふと隣から声が聞こえる。
「ちょっと!なに会議中に寝てるのよ!」
その隣からさらに声が。
あまり大きな声ではないが、身体を揺らされ、貸すかに届く声も、徐々に大きくなっていく。
「寝てないよ……」
そんな、適当な返事でその場を済ませる。
なにか大切な部分が抜け落ちている。
そんな、不思議な虚無感に襲われながら進み続ける話に、耳を傾ける。
「私、正の《魔術師》と彼女、正の《隠者》が戦闘を行ったのはフドウトンマのみ。コゴマウンゼンの能力は未知数だ」
村本の声にさらに集中力が高まる。会議において重要出ない部分など無いのだが、ここはもっとも集中すべきところだろう。
「正の《塔》の現す根元的な意味合いは『崩壊』。敵の能力もそれに準じている。簡単に言えば、分解と再構築だ」
「分解と再構築……」
各寮からざわめきと共にその単語が会場を行き来する。
「奴に遠隔攻撃は一切通用しない。放たれた攻撃は分解され、奴自身の攻撃として跳ね返されるだろう」
ざわめきはさらに広がっていく。
「自分自身の強化、物理攻撃が無効にされることは無い。故に敵を討つには物理攻撃特化のメンバーで戦線を組むことになる」
村本がOLを操作し、再び会場にウィンドウがポップアップされる。
画面は二つに区切られており、会場の《ホルダー》15人が振り分けられている。
「これは?」
蒼龍の辺りから声が響く。
村本はあくまで冷静に、たんたんと語る。
「単純に、フドウトンマの討伐にあたるチームとコゴマウンゼンの討伐にあたるチームだ。」
椋も自分のチームを確かめる。
「見てもわかる通り、芙堂頓馬の討伐には、正の《星》正の《審判》負の《女帝》負の《恋人》正の《隠者》負の《戦車》そして《愚者》に、少々馬雲仙はそれ以外のものに当たってもらう」
会場の全員が思っていた疑問を、正の《審判》坂本真也が村本に問う。
「校長は、どちらのチームに?」
そう、表示された画面には正の《魔術師》の名前が存在しないのだ。
「私はどちらにも属さない。《エレメントホルダー》ならよく知っているだろうが、《エレメントホルダー》は他からの回復支援を受けることが出来ない。故に私の時間遡行で修復を行うことになる。14人分となると私も全力をだし戦えないのでな。足手まといにならぬ様、作戦指揮と、生徒保護、君達の支援に回ることになる」
「なるほど」
「君達の命は何があっても私が守ってみせる。危険な作戦だ。参加したくない者は帰ってもいい。咎めることはない」
村本が大きく腰を折り、頭を下げる。
その場の誰もがそれに驚きを隠せなかった。そして、反対するものもいなかった。それほどに校長の行動はまれに見るものだったからだ。誰がその場で会議を投げ出せよう。
「君達の協力をお願いしたい」
その言葉にいつも気迫は存在しなかった。
「頭をあげてください」
そう口に出したのは麒麟の総代表、喜来だ。続けざまに彼は言う。
「《ホルダー》以外の人間も呼び出したと言うことは何かの意図があるでしょ?」
彼の的を射た意見に村本は頭をあげ、一度首肯する。
「《ホルダー》以外の人間には一般生徒の誘導を行ってもらいたい」
「と言うと?」
今度は白虎の総代表、森本が発言をする。
「各寮、全ての生徒に帰寮命令をだし、全ての生徒を学園外に転送する」
「そんな大がかりなことができるのですか?」
続く森本の問に村本は冷静に答える。
「能力孤児に転移系能力者がいる。彼の力があれば30分とかかるまい」
恐らくVのことをいっているのだろう。確かに彼なら生徒どころか、寮まるごと転移させることも可能だろう。
「了解しました」
そんな森本の声が会場に広がり、場の緊張感はさらに高まってきた。個人には重すぎる責任だ。
「質問はあるか?」
その質問に対し上がるてはいくつかあったが、どれも些細な問であった。
「ではこれにて、正の《塔》掃討会議を終了する。作戦決行は今から30分後、この時間までに一般生徒の避難誘導をしてくれ。《ホルダー》諸君には渡したいものがある。この場に残ってくれ」
その場の切迫した空気が最高潮に到達したと同時に、村本の大きな声が、それを爆発させた。
「では、解散!!!!」
窓の外に覗く空は限りなく黒い雲に覆われていた。まるで初夏の昼とは思えないほどの黒い空は、皆の不安な心をさらに煽った。




