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ゴホンッと大きく咳をした村本が再び開催宣言をする。
「では改めて。これより、正の《塔》掃討作戦の会議を行う。この場にいる《ホルダー》は全員本体を召喚してくれるか?」
村本の言葉に皆は各々に《エレメント》の素体を召喚し始める。《エレメントホルダー》が絶対に持っている能力、小人として体内の《エレメント》を召喚できるというものだ。共通する部分があるとすればそれは召喚エフェクトが派手だというところだろうか?
雁金さんがいい例だ。
広い会議室が様々な光に包まれる。
扉もあれば暖簾もある。ハートを散らすものもいれば、隣の釉上は花弁と葉を華麗に渦巻かせている。
その光景は美しいの一言につきるだろう。まるで四季を再現しているかのような、様々なエフェクトに溢れている。特に朱雀寮の総代表、坂本真也の正の《審判》の召喚エフェクトは圧巻と言わざるを得なかった。紅蓮の炎を纏う鳥たちが数匹、周囲をぐるぐると巡り、その中央に本体を召喚するというものだったが、その美しさはこの世のものとは思えないほどだった。
「うっひょー!!!」「すっげぇぇぇぇぇ!!!」
等という声が椋の両サイドから届く。大体こんな反応を見せてくれるのは懋の役目なのだが、今回は麒麟寮の総代表、喜来凜太も続いて同じような反応を見せていた。
それぞれが召喚した本体はまるでその役目を理解しているかのように自ら行動し、議席に囲まれるように作られた、中央のもうひとつの小さな座席へと移動していく。
椋が召喚したピエロのような姿をした小人は、ようやくかといった面構えで、中央の議場を見据える。
「我らも行くぞ」
「貴方いつから私に命令できるようになったのよ」
《愚者》フールの言葉に反応するように大宮の前に召喚された負の《月》ヘカテが反抗する。
「まぁ、落ち着なさい。今ここで争ってもなんの意味もないでしょうに」
そう二人を宥めるのは釉上の前に召喚された割烹着の奥様方風というべきか。正の《節制》だ。名前をまだ知らないが、彼はその隣に立つ、もう1人の《エレメント》に言う。
「貴方からもなにか言いってくださいなブレイブ」
「まったくだ。ガキでもあるまいし、久しぶりの再開を喜びたいというのに……」
その声の主は確かに麒麟寮の机の上にたっていた。
見た目で言う特徴は少ないといっていい。言葉遣いに似合わず、長めの黒髪が特徴的で、静かにしていれば麗人といっても遜色ないと思うのだが、行動面がそれを阻害している。
「ブレイブ?正の《力》のアイツが今この場にいるわけが……な……」
先頭を切ろうとしていたフールが振り返り、思わず驚愕の表情を浮かべる。
「なんだいフール?その幽霊でも見るような顔は」
「ブ、ブ、ブレイブではないか!!!!」
「だからそうだっていってるだろ」
フールの思考が椋の頭のなかにもしっかり流れ込んでくる。椋自身かなり驚いているのだ。
契の正の《力》がすでに覚醒しているのだ。
今の今まで真琴に《種子》と言われていたものが、今、《エレメント》を召喚できる程にまで成長しているのだ。
「ヘカテ、御前一枚噛んでいるな」
フールの感心のこもった声に、当のヘカテは自慢げに語る。
「私とツグにかかればこんなの楽勝よ」
「とか言っちゃってー。時間ギリギリで結構焦ってたじゃない」
負の《月》の憑代、大宮亜実はヘカテのほっぺたをぷにぷにとつつきながら笑う。
「ちょっとツグ!必要ないこといわないの!」
「強がっちゃてー」
「もう……」
大宮の攻撃にヘカテの心が折れた頃、大宮の奥に座る契が発言する。
「事情はまたあとで話すよ」
「あ、あぁ」
喜ぶべき状態なのだろう。と心の中で解釈し、それ以上を問わないようにする。
状況をみかねたのか、正の《節制》の素体が、その場をしきる。
「さぁ!皆さんお待ちです。行きましょう」
ヘカテも今回ばかりは正の《節制》に突っかかることなく、指示に従った。
中央のもうひとつの円卓には既に全ての《エレメント》が召集していた。
小人は合計15体。
麒麟寮 《愚者》正の《力》正の《節制》負の《月》
朱雀寮 正の《審判》負の《隠者》負の《戦車》
白虎寮 正の《恋人》負の《吊るされた男》
蒼龍寮 正の《星》負の《皇帝》
玄武寮 負の《女帝》負の《塔》
その他 正の《隠者》正の《魔術師》
会場に集まったエレメントはこれがすべてだ。
《エレメント》を含める全員の着席を確認した村本は、再び議長として発言をする。
「まずはこれを見ていただきたい」
OLを操作し、村本が議席の中央に複数のディスプレイをポップアップさせる。
映し出されるのは、先程正の《隠者》ハーミットが見せてくれた二人の科学者の映像だ。
「侵入者は二人。今は校舎棟白虎区の模擬戦闘施設、白虎コロシアムで停止している」
唐突に始まった解説に、一部からざわめきの声があがる。
「年配の方の名前は芙堂頓馬。彼が正の《塔》のホルダーだ。もう1人の少年、彼は小々馬雲仙。人工結晶のプロフェッショナルで、我々とは戦闘こそしていないが、うちに秘めたる可能性は未知数だ」
会場のうちの一人、蒼龍生のホルダー正の《星》、三年生の確か名前は成瀬昴。細身の男で前髪に青いメッシュがかかっているのをおぼえている。彼が手をあげる。
「どうした成瀬」
「はい。僕にはその、侵入者の脅威を理解できないのですが……」
「ふむ……」
悩み込むように考える村本。
成瀬の疑問も当然だ。彼らは基本的に七罪結晶の存在を知らない。どういう説明をするのだろうか?
「まずは最初から説明させてもらおうか」
村本は手元のOLで作業を始める。
最初に出てきたのは画像。七罪結晶七種類だ。
直方体のネックレス《強欲》
いびつな形のブレスレット《暴食》
艶やかなカチューシャ《色欲》
刺々しいフォルムのフィンガーアーム《怠惰》
禍々しさ漂わせるマスク《嫉妬》
威圧感溢れる鎖《傲慢》
これらとは違い雰囲気を感じさせない7つの指輪群《憤怒》
疑問の顔を浮かべるものもいれば、驚きを浮かべているものもいる。
「これからする話は全て最高機密事項だ」




