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同日同刻 所花車学園職員塔特別病棟
椋たち五人と一匹(?)は、雁金さん、校長、謎の《エレメントホルダー》の戦闘開始を察知するまでさして時間を必要としなかった。
「始まったな」
フールの声が病室に響くと、病室の緊張度は一気に上昇した。
「といっても、俺たちにできることなんて何もないんだろ?」
懋がいつもどおりの少しおちゃらけ態度で《愚者》に尋ねる。
皆の緊張をほぐすためか、少しわざとらしい懋の言葉に、フールは首を縦に振った。
「我々にできることは現状では存在しない。だが、この時間を無駄にするわけにも行かんだろう…………」
フールは椋の頭上で方向転換をし、契の方を向く。
「おい小僧」
「はい?」
契は《愚者》の問いに耳を傾ける。
「御前は今、正の《力》のホルダーになった訳だが、自らの中にそれを感じるか?」
「はい……。一応……」
その言葉に反応するように真琴が横から言葉を挟む。
「一応じゃなくて確実よ!アタシの片眼鏡で確かに契の中にある力を見ることができたもの」
真琴の言葉を聞いた《愚者》は再び契に問う。
「会話はできるか?」
「会話ですか……?ど、どうやって?」
「なんていうんだろ……。感覚的には思考通話に似てるかな……?頭の中で自分に語りかけるように声をかける感じかな」
今度はフールの下から椋が間を取り持った。
この場で最も経験の長い《エレメントホルダー》として、契へのそう言った類の助言は椋が適任なのだ。
「やってみるよ……」
そういって契は目を閉じる。
病室の中に先程とはまた違う緊張が立ち込め、しばらくの無音が訪れた。
「ど、どうなのよ契?」
数分間の沈黙の後、とうとうしびれを切らした沙希が無言の契に尋ねる。
「だめだ。なにも聞こえない……」
契のネガティブな発言に反応し、フールが呟く。
「ふむ……。そうなれば、まだ眠っているのかも知らんな」
「眠っている?力を使いきった後のフールみたいにか?」
「違うわ。力が足りてないのよ」
椋とフールの会話に割り込むように真琴が呟く。
「足りてない?」
一番不安になっているであろう契が、思わず真琴に尋ねた。
「契、今のアンタのなかの《エレメント》は恐らく種子みたいな状態なのよ。アンタの力と言う名の栄養を与えないと芽生えない種子」
「種子……」
考え込むように少しうつむく契。そんな契にフールは告げる。
「考え込むほどのことではない。我々《エレメント》の覚醒にとって必要なのはきっかけだ。御前の素質は十分にある。御前の中の《力》を動かす何かがあればきっと目覚める」
「きっかけ……か……」
少しホッとした様子で契がベッドに沈み込む。
無機質な空間に軟禁状態の五人は何かできるわけでもなく、状況を待った。




