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同日同刻 場所 白虎寮【白虎コロシアム】跡
「おい、あんたら」
先日の七罪結晶《色欲》回収戦にて破壊され、瓦礫こそ撤去されたものの、無残な街にのこる爪痕だけここで行われた過酷な戦闘をひしひしと伝えるに事足りなかった。
廃墟といっても嘘にならないほど廃れた空間に響く少女の声は目の前で、こちらの存在を一切気に止めないかのようにあたりを物色する二人の人間の耳には届くことはなく、二人のうちの一人、小さな少年は地面に落ちる石ころを拾い上げ、自前のデバイスを通しじっくりと観察している。
「無視してんじゃねぇぞ!」
怒りに満ちたその声は空間を大きく揺らす。
「おっと」と間抜けな声をあげ、じべたに座り込んだ少年はゆっくりと腰を持ち上げる。
「博士、お客さんですよ?」
少年はあどけなく幼い声でもうひとりの人間にそういう。
少年のすぐ隣で謎の調査を進める男は年齢的に50は超えているだろうか?初老の男は無言のまま鬱陶しそうな眼で雁金悠乃、村本重信のいる方に顔だけを向けた。
「なんだ、騒がしい……」
初老の男は手に持った人工結晶のような端末の電源を切ると、白衣を翻し二人と向き合う。
「正の《魔術師》に正の《隠者》か…………」
古い眼鏡の下から覗く龍の如き眼光が二人の体を貫く。
「そういうアンタは正の《塔》……。アンタが永棟契を騙したっつう芙堂頓馬か」
悠乃は準備運動のように首と拳を鳴らし、となりで静かに状況をみやっていた村本も、その身に青のオーラを纏わせる。
「物騒な真似はよせ」
緊迫した空間を芙堂は右手をかざすだけで完全に静止させる。
「あなたこそ、その物騒なモノをしまってはどうかな」
張り詰めた空気の中でそう切り出した村本。もちろんそれは七罪結晶のことに違いない。
それは芙堂の右手の指に装着されているモノ。7つの指輪だ。白い指輪が中指に一つ人差し指と薬指に二つずつ。それ以外の指に黒い指輪が一つずつ。それぞれが細い紐のようなモノでつながっている。7つの結晶と言えなくもないが、あれで一つとカウントするのだろう。
「七罪結晶ってのは全部どす黒い色してるもんだと思ってたんだが、あんな白い物もあるんだな」
「私も現物は初めて見たものですから、そこは何とも言えないんですが」
「ただ…………」と村本は拳を深く握り込み冷や汗に似たものを感じながら続ける。
「あれは他の結晶にない異質なものを感じますね…………」
「同感だ…………」
皮肉るように首を縦に振りながら放った悠乃の言葉。そんな言葉にさえ多少の震えを感じる。
多くを語らない初老の男は無言なまま静かにその右腕を悠乃達に向ける。
「物騒なモノなどではない、人類の英知の結晶だ」
男の言葉で再び高まった場の緊迫がピークに達した頃、後ろで何らかの作業に集中する小々馬など忘れられたかのように、三人の《エレメントホルダー》の戦いが始まった。




