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暫くの間やはり静かになる。皆一様に状況の理解に励んでいた。把握まで時間がかかることはなく、五人のうちの1人、田口懋の
「よっしぁぁぁぁぁあ!!!!」
という一言でその場は歓喜に包まれた。
喜べる自体ではないのはわかっている。
永棟契はしっかりと罰を受けるべき罪を犯した。
しかし、それが最悪の事態を招く道筋はたった今途切れたのだ。
それは彼らにとって喜ばしいことこの上ないものだったのだ。
契自身は少々思い悩んだ表情を見せ、心に心から笑顔を浮かべることができないといった様子ではあったが、周囲の歓喜に飲まれ、少し気が楽になったのは疑うまでもないだろう。
「うるせぇぇ!!クソガキども!!」
とその喜びの空間をぶち壊すかのように叫ぶ雁金さんは、あまり明るい表情をしているとは言えなかった。例えるならば怒り。いや、威嚇に近い表情だろうか?不意に窓の外を見つめた黒髪の少女は先程までとまるで真逆といっていい様子だった。
椋は知っている。こういう表情を見せる雁金さんは大抵の場合大きな問題を抱えているということを。
「どうしたんですか……………?雁金さん?」
「どうもこうもねぇよ………アンタあれに気が付かねェのか?」
そう言って雁金さんは何かの確認を椋にする。一切何も感じられない椋は一瞬の不安に襲われ周りの皆を見わたす。
異常を認知している様子を見て取れたのは雁金さんを含めて3人。村本重信と柊真琴だ。
「『可視化の片眼鏡』!!!」
そう叫ぶと彼女の腕に巻かれた天然結晶からエメラルドグリーンの光が放出される。彼女の眼前に集約された光は徐々に形を形成し、片眼鏡を形成する。
柊真琴の能力、『可視化の片眼鏡』は能力の根源となるエネルギー体を観察することのできる能力だ。そんな能力の持ち主である故に、彼女は大きな力に影響されやすい体質にある。簡単に言えばそういうたぐいのものに機敏に反応してしまうのだ。
浮遊する片眼鏡を強引に自分の目にかける真琴。そしてそれを見ると同時に彼女は怯えたように契の寝ているベッドへと座り込んでしまう。
「どうやって学園に!!!」
そう叫ぶ村本の表情も、先程まで雁金さんに頭を下げ困った表情を浮かべていた彼とは全くの別物だった。いつも冷静、いや冷酷な彼でさえ、困惑や驚きといった感情を隠しきれずにいた。
「何がどうしたっていうの……………?」
戸惑いの表情を浮かべる沙希に乗っかるように、契、懋、椋も続き似たような言葉を並べる。
「な何か、凶悪で、狂悪で、き、気持ちの悪い、何かが…………」
はっきりとした喋り方をする真琴でさえもしどろもどろとし、何を伝えたいのか全くわからない。
「重信!!」
「はい!悠乃さん!」
低く声を上げ全身に若草色の光をまとわせる雁金さんに反応し、校長村本重信は全身から純粋な青色の光を現出させる。
これが強者の闘気というものなのだろうか?
先程までの明るい室内を、今にもこの職員塔が崩壊しそうなほどの力が支配していた。
それは二人のエレメントホルダーの本気とも言えるものなのだろうか。
海を割り、地を穿ち、空を裂く。そんな言葉が当てはまるような、強大な力だ。
「『隠者の隠れ家』!!!!」
雁金さんがそう叫ぶと、部屋の構造を無視した巨大な若草色の門が現出する。
「おい椋!!」
「はい!」
緊迫した空気の中、雁金さんは告げる。
「絶対にこの部屋から出るんじゃねぇ。アタイらは少し様子を見に行ってくる」
「はい!」
それに続くように発せられた村本の言葉。
「少年。君のOLに一つプログラムを転送しておく。私達がこの門をくぐった後、門が消失すればそれを起動させてくれ」
その発言が終わると同時に椋のOLに一つの通知ウィンドウが出現した。
「解りました」
これが緊急事態であることはこの場の全員が理解していた。
だから気になろうとも、椋は何も言わず、ただ彼らの指示に従うことにしたのだ。
「気を付けてください」
椋が発した言葉に校長、雁金さんは共に、何も語ることなく、巨大な門に向かい歩き始めたのだった。




