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――――――――――力が、力が欲しいんだ………。
ふとそんな椋の意識を引き戻すように、契の思念が椋の耳元に届いた。
『誰かを傷つけるためのものじゃない……』
『自分に勝つための…………』
『誰かを守るための力がほしいいんだ…………』
契の心の言葉は次第に弱音をこぼさなくなっていった。
聞こえる心に込められた思いは純粋な力への欲求。それは、自分を正しい方向へと導く力という道筋を求めているように聞こえた。
「じゃあ………じゃあ守ってくれよ!!」
響き渡る悲鳴の中で椋はそれに負けないような大きな声で叫ぶ。
「そこに力はあるんだろ?じゃあ手を伸ばせよ!!!」
届くかどうかはわからない。ただ届かせたいという一心で叫んだ言葉はその場に一瞬の静寂をもたらした。
そう、契の悲痛な叫びが止まったのだ。
そしてそれを打ち破るように眩い、目を閉じずにはいられないほどの白い煌きが空間を覆い尽くしたのだ。
「っ…………契?」
あまりの突然さに少しの不安感が襲いかかる。が、それもつかの間のものだった。
巨大な壁のように濃密に広がった白い光には影が写っている。
徐々に薄くなっていく光の壁の奥に、地に背を付け大きな空に拳を伸ばす契の影が。
その拳には意思を感じる。言葉では言い表すことのできない何かを感じるのだ。
決してマイナスの方向に物事は進んでいないと椋は確信することができた。
―――――――なぜなら突き上げられたその拳に一片の曇りもない純粋な力を垣間見ることができたから。




