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目の前の竜巻が完全に消滅する頃にはその現象は起こっていた。
上空には異色に輝く8つの球場の物体が存在したのだ。
黒、紫、赤、桃、茶、緑、黄、白、それぞれの球が上空で何度も旋回し続けている。
「アレが……《エレメント》……」
そんな椋のボソッとした呟きを雁金さんが拾い上げる。
「そう、アレが《エレメント》の素体。アタイも見るのは初めてだけどな」
そう呟く雁金さんは契の前を去るように後ろに飛び椋の横まで移動する。
椋に背中をぶつけるように力を抜いた雁金さんは、そのままぐったりとし、その場に倒れこむ。
「師匠!?」
思わず心配の声を上げてしまうが、雁金さんはそれを右手を上げ制する。
「ちょっち力使いすぎたわ…………。疲れたからしばらく休ませてくれ……………」
「は、はぁ……………」
雁金さんのあまりに気が抜けた発言に、妙な納得を強いられる。
「とりあえず、《エレメント》の召喚には成功したわけだ。こっからはクソボウズの出番だ。オマエのダチなんだろ?最後まで見届けてやれ……」
雁金さんのそんな言葉に一度契の方を見やる。
上空に輝く球体の内、すでに三体ほどはその姿を消していたが、残る全ては徐々に契に近づいていた。
雁金さんに質問を飛ばそうともう一度彼女を見やると、すでに深い眠りについているようで、静かな寝息を立て、その身をこちらに預けていた。
椋は自らが着用していた制服を器用に脱ぎ、折りたたみある程度の高さにすると、雁金さんの頭を持ち上げ、地面との隙間にそれを挟み込む。
「すいません……ちょっとだけ動かしますよ……」
それを枕替わりにし、雁金さんが起きないのを確認したところで契のもとに移動する。
さらに降下を続ける球のうち3つが霧散し、白、赤の二つの球がようやく契の本体にたどり着いたかと思うと、契に接触する直前に赤の球が消えた。
最終的に残った白球はうずくまる契の中に吸い込まれるように侵入する。
「あ゛ぁあ゛ぁぁぁ゛ぁ゛あ゛ぁぁぁぁぁ!!!!!!」
瞬間、契の痛烈で残酷な悲鳴が島中に響き渡った。




