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 「《Ci機構》っていってね……。簡単に言うと強制誘発装置だ。他者の脳内からソルスエネルギーを引っ張り出し、それを所持する人工結晶に無理やり流し込む物。本当はもっと小難しいものなんだけど、簡単に言えばこんな感じかな」

 「それで……七罪結晶を…………?」

 「うん……連れて行かれた僕は小々馬と対面し、彼の真意を確認しようとした。けど彼は最初から会話という行為を行おうとすらしなかったよ。ただ純粋な興味の眼差しをこちらに向け、《Ci機構》を備えた装置を僕に放った……」


 これが事実なのだとしたら誰が契を責めるられるだろうか?

 問題解決のために力を尽くした契は卑劣な罠にはめられ、忌み嫌うものを操作する《契約者》となっていたのだ。


 「こんな事が…………こんな事が許されてたまるか!!!!」


 脳内が沸騰しそうなほどの怒りが椋を包む。

 

 「僕が所持していた結晶は《強欲》。力を手に入れた僕の欲求は《強欲》によって増幅され収まることを知ろうとしなかった……」

 「でもそれはッ!!」

 「仕方ない……って言おうとしてるんだろ?そうじゃないんだ。僕は純粋に力を欲したんだよ。七罪結晶の力に魅せられ、もっとほしいと簡単に単純に純粋にそう願ったんだ」

 「だから…………大久保先輩を……寮間闘技を……なにより無関係な人間を巻き込んだっていうのか?」


 素直に椋の脳内に浮かぶ言葉を口に出す。


 「少し違う」

 

 帰ってきた言葉に少々意外性を感じてしまうものの、椋は口を挟むことなく耳を傾ける。


 「僕は指令を受けていたんだ。芙堂からね……。指令というよりは命令といったほうが正しいかもしれないけど……」

 「どんな……どんな命令だったんだ……?」

 「簡単だよ……。結晶を使う気がない人間から結晶を回収する。ただ、それだけだ。彼らの目的を知る事はなかったけど、指令に従わなければ僕は七罪結晶を使うことすらできなくなってしまうからね。彼らの犬になったんだ。自らの尊厳を捨てて、ただ欲に塗れた汚い(契約者)に……」


 言葉というものが出てこなくなる。

 この一件に関して悪は何かと聞かれればそれは間違いなく、小々馬雲仙、そして芙堂頓馬。アーティファクトアーツ社に所属する二人の人間だ。黒幕と言って違いないだろう。

 しかし、永棟契に「君は悪くないから」と言って協力を願えるかどうかといえば、それはNOだ。


 そんな思考を張り巡らせていると、ついに契から奇声が聞こえ始めた。呻くような、苦しげな声に交じる正気を保った声。しっかりと聞き分けができるのだ。

 二重人格と言ったらいいのだろうか?少し違う。彼の悪の面と善の面がせめぎ合っているような、悪の面を必死に抑えようとする、善の面の契の抵抗が見て解かる。

 

 「だからさ……椋……。最後に一つだけ、お願いがあるんだ……」


 苦しそうに漏れてくる声は、切実に、確かに、しっかりと椋の耳に届いた。


 「僕を……殺して……くれ…………………」

  

 一瞬にして椋は自分の耳の方がおかしくなってしまっのではないかと疑った。


 「ち……契…………………なにいってるんだ?」


 しかし、そんな疑念も繰り返される彼の言葉で簡単に吹き飛んでしまう。


 「お願いだ椋…………僕はもう……ダメなんだ……」

 「だめって…………何が?」

 

 考えられない。椋の脳内で彼の言葉が一切といっていいほど正しく整理されない。

 

 「七罪結晶の依存性は麻薬のようなもの……。簡単に克服できるようなものでもなければ、取り去る方法もない……。僕はしばらくしたらまた犬に戻ってしまう。貪欲に力を貪る汚い犬に!!」

 「だからって!!」

 

 反論しようにもその言葉が頭に浮かんでこない。ただ叫び、あとは口ごもることしかできない。


 「椋も見たんだろ?僕の汚い姿を……………。僕は嫌だよ……あんな汚い姿誰にも晒したくない!!誰も傷つけたくない!!誰も……僕も……僕を変えられない…………!!」


 契の両の目から小さな水滴がこぼれ落ちる。止まることを知らない涙は次第に粒の大きさを増し、速度までもを早めてくる。

 そんな契の涙が、椋にある言葉を思い出させた。


 『諦めるな』

 

 先ほどの契との第二戦を開始する直前に挫けそうになり、涙を流した自分に《愚者》がかけた言葉だ。

 その言葉が今、椋の頭の中を駆け巡ったのだ。

 

 (こんな理不尽が許されていいわけがない…………!!今俺が契を助けなきゃいけないんだ…………なにか一つでも……。考えるのをやめるな……なにかあるんだ……なにか……)


 椋の脳がフルに回転する。

 しかし椋の思考を再び遮るように再び契の呻き声が響き渡った。

 そんな声が椋の焦りを掻き立てる。それでも椋は考えることをやめなかった。


 自分にもあったはずだ。力に抗うことができず、大切な物を失おうとした一瞬が。

 自分にもあったはずだ。思考を止め諦めようとした一瞬が。

 自分にもあったはずだ。それでも諦めず、自分の愚かさを認め、それでも力を欲した一瞬が。


 ほんの数ヶ月前だが、えらく昔に感じてしまう、小林との一戦を椋は思い出していた。

 契が抗っているのは自分だ。自分の欲望だ。

 それを打ち砕く、いや、それに打ち勝つ方法を椋は一つだけ思い出したのだ。

 

 それは奇跡と言っていいのかもしれない。あれは偶然ではなく必然だったのだか。

 

 

 しかし、それに賭ける価値は十分にあった。




  

 

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