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契は淡々と続けていく。
その顔に時折苦しさを交えながら。
「そう、罠……。今は言い訳位聞こえるかもしれないけど、僕はそもそも七罪結晶に手を出そうとなんて思っていなかったんだ。危険だということはいじってみてわかっていたし、かなり依存性があるということも調べていたらすぐにわかったからね」
やはり言葉に嘘を感じることはない。そもそも疑っているわけでもないのだが、彼が語る話を脳内で整理するにあたって必要な単語を聞き落とさないためにも、いつもより慎重に耳を立てているのだ。
「実家で、アーティファクトアーツ社で待ち受けていたのは意外な人物だった。芙堂頓馬博士。七罪結晶の製造主であり、正の《塔》のエレメントホルダー。ついでに言うと商品開発担当取締役。知り合いのおじさんだった。もちろん彼が七罪結晶を作っていたなんてことその時は知らなかったし、むしろ《塔》のホルダーだということも知らなかった」
話の整理を頭で行っているうちに気になることが一つ頭に浮かぶ。
「じゃ、じゃぁ……契を罠に嵌めたっていうのはその正の《塔》のホルダーなのか?」
「そう。さっきも言ったとおり顔見知り。父とも仲がよく何の疑いもなく彼に七罪結晶の話を聞き、そして小々馬の話もきいた。芙堂は隠すことなく全てを語ってくれているのだと僕は信じていたんだ……。なにせ七罪結晶を自分が作ったということを明かしてくれたんだから」
後悔に顔を染め、眉間にしわを寄せる契。それはおそらく芙堂という人間に向けられているものではない。自分に、自分自身に向けた怒りなのだ。
最初は平静だったその表情も、話と時間が進むにつれてだんだんと険しくなっていく。
そろそろ限界なのだろう。
「彼の部下である小々馬に合わせてくれるという話を持ち出された瞬間に少しでも疑えばよかった……。普通なら対面させる前に七罪結晶を持ち出した事を小々馬に問い詰めるはずだ。彼自身が七罪結晶を作りその危険性を知っているならなおさらそうしたはずだ。でも僕はそれを疑うこともしなかった……。ただ回答にたどり着くことができたという達成感と全能感に身を躍らせていたんだ」
悲しみが、悔やみが、何よりも怒りが、彼を包み込んでいた。
先程までの空っぽの感情とは違い、カラフルな、しかし暗い、負の感情が彼を彩っていた。




