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あれからどれくらい時間が経ったのだろうか?
雁金さんから連絡があり、校長に誤魔化しが効いたとのことを伝えられ、正直少しだけホッとした気分になったのも束の間、
「ッ……!!」
と声を漏らし、となりで寝ていた契がゆっくりと体を起こす。
視界に入ってきた太陽光線に目がくらんだのか、顔の前に手を持ってきてそれを遮ろうとする。
となりに椋 がいることにまだ気がつかず、ゆっくりと自分の胸、手首、そして顔にゆっくりと手を当て、何かを探るような仕草を見せた後に、ようやく現状を飲み込み始めたようだ。
「俺の……俺の結晶をどこへやった……」
地面に背中をつけたままで契が言葉を放つ。
そんな目を開け始めて放つ言葉で、契がどれだけ七罪結晶に侵食されていたのかを理解せざるをえなかった。
契が寝ているあいだにずっと考え続けていた。これから、いや、今から彼とどうやって向き合っていくのかを。出てきた答えに正解があるのかどうか。そんなことはわからない。だが選択肢はひとつに絞っていた。
椋は胸元からひとつ、雁金さんから手渡しされた物をみっつ。《強欲》《嫉妬》《暴食》《怠惰》の結晶を全て地面に並べる。
瞬間、墜落のせいでうまく動かないであろう身体に無理を言わせ契がなにかにとり憑かれたかのように契が全ての結晶を抱き寄せ、安堵の表情を浮かべる。
「契…………」
簡単に言葉では言い表すことができない。複雑で、どうしようもない感情が脳内を渦巻く。
今、4つの結晶を手にヘラヘラと笑みを浮かべるコレを、俺は契として認めていいのだろうか?
「なんだその顔は…」
契が問いを投げる。
自分は今どんな顔をしているのだろうか?もしかしたらひどく怒りに満ちているのかもしれない。もしかしたら薄く涙を浮かべているのかもしれない。もしかしたらこの感情はほとんど表に出ていないのかもしれない。
いずれにしろやることは変わらない。
「立てよ」
問いかけに反応することはなく、契に言い渡す。
おそらく説得やら話し合いやらで解決するたぐいの問題ではない。契本人がいかにして七罪結晶の誘惑を断ち切るか。それにかかっていると考えている。
故にやることは一つだ。
「なぁ契……俺たち喧嘩したことってなかったよな……」
「何をいきなり……」
若干驚いたような顔を見せた契に、少しにやっとして椋が繰り出したのは素手の拳だった。
これまでの戦闘経験のおかげか。単純な攻撃が契を貫くと、そのまま彼を勢いよく殴り飛ばす。冷静に人の拳とは思えないほどに吹っ飛んでいく契、めまぐるしく変化していく契に向かいもう一度言い放つ。
「ちっと喧嘩しようぜ……!」
地面に手をつく契に向かい、椋は再び右の拳を構えた。




