37
今度も、正面に門を作るのではなく、地面に門を現出させると、地面に潜り込むように雁金さんが姿を消す。
若草色の残光が徐々に消えて行く中、上空に再び幾つかの門が現れる。先程とは違い、指で数えられる程の数しか現出されなかった門の内の一つが、ゆっくりと開く。その動きに合わせてすべての扉が開いたが、中の何処にも雁金さんの姿は見えない。
しかし椋はすぐに彼女が何処に居るのかを理解できた。なぜなら、地面から先程と同等、いや、それ以上と言っても良いかも知れない程の光が溢れ出していたからだ。
「星屑一閃!!」
地に響くような大声と共に放たれた一撃必殺の矢は、まっすぐ上空のエンヴィに向かって進み、いざ貫かんとする。
「耳無豚…」
少しエコーのかかったような声が、静まり返る戦場に響く。
一閃がエンヴィに届くその直前、割ってはいるような形で、猪の突進がそれに炸裂した。やはりそらされるように弾き飛ばされた一閃。しかし雁金さんが余裕の表情を崩すことはなかった。
「やっぱり単能だな、アンタら!!」
雁金さんがそう叫ぶ頃にはその現象が始まっていた。
まるでソレイユ戦の椋のように、一閃が門から門へ。その門から次の門へ。直進する矢は門を通ることで方向を変え、その中心に立つエンヴィ、そして耳無豚、尾裂狐、犬神、三体の召喚獣を閉じ込めるように走り続ける。
「行くぞ椋!」
叫ぶ声が椋に届く頃には、一閃が完全に黒豚の背後に回っていた。
考える間もなくその足で地を蹴った椋。跳躍が開始されると同時に雁金さんがもう一度叫ぶ。
「星屑一閃!!」
一閃は猪を完全に貫くと、猪とともに勢いそのまま雁金さんが現出させた門に吸い込まれていく。
若草の光に覆われた空間。その残照が消えた時、椋は既にエンヴィの前で拳を構えていた。
いつの間にか濁った色が消え、いつもの金色に戻っていたその光輪が拳の前にせり出し巨大化する。
「おおぉぉぉぉお!!!」
全身の力を全て拳に乗せる。
光輪でできた足場を使い、どんどんと右拳をエンヴィの顔面に向け近づけていく。
「ああああああぁぁぁ!!」
再度障壁によって攻撃を止められるが関係ない。体重を全てエンヴィにかける。
椋の背中でバタンッと門の閉まるような音が聞こえると同時にその障壁が一瞬にして消え失せたのが感覚として理解できた。
「おちろぉぉぉぉぉぉお!!」
流れるような重心移動で容赦なくエンヴィの顔面を貫かんとし、椋はその右腕を振り切った。




