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そんな思考を働かせていると再び三体に動きがあった。上からではかなり小さくしか見えないが確実に異変が起き始めていた。
場の空気が変わったといえばいいのだろうか?それは変化ではなく明らかに変化であった。
集中が一点にむけられる。エンヴィ含め三体の召喚獣がいる一点。ここからでは小さくしか見えないが一瞬だけ5つの赤い点が光る。
横並びの五点は椋がそれを認識した時には、既に眼前まで迫ってきていた。
避けることはできない。それを確信した椋は可能な限りで体をひねった。
直進する光はまるで三日月のような欠けた円状、状況からするとおそらく爪の形、つまりは犬神の攻撃だろう。
顔面の横をかすめていった爪跡は耳と肩の肉を容赦なく切り裂き通り過ぎていく。
全身に声にならないような痛みが走るが、それを叫んでいる暇はないと直感的に理解する。
空中で自由に身動きが取れるほど『光輪の加護』は万能な能力ではない。そんな中この弾幕のように無数に打たれる斬撃にどう対処しろというのだろうか?
迷っている暇もない。椋は足場を蹴り、地面に向かい跳躍、着地する。逃げる以外ではこれ以外の方法はなかった。限られた選択肢で行った行動は完全にエンヴィに読まれていた。
敵を確認する前に目に入ったのは猛烈な勢いで突進してくる黒豚だった。
(ムリだっ!!)
それを完全に理解した椋は目をつぶり、防御体制をとる。人間の反射的行動だ。
しかしいつまでたっても衝撃、痛み、そんなものが襲ってこない。この状況でエンヴィが攻撃を止める理由など一切ないだろう。しかし攻撃はいつになっても行われなかった。
恐る恐る目を開けるとそこには信じられない光景が広がっていた。
いつの間にか背後に現れたまぶしい位の若草色の光が、
「大変そうなことになってんなぁオイ」
幼くもしっかりとしたその声が記憶を揺さぶる。
「なんなら手ェ貸してやろうか?」
そして小さな体から伸びる手が。
「雁金……さん……?」
「師匠って呼べっつってるだろクソガキ!!」
そのまま椋の脳天に直撃した。




