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先に仕掛けたのはエンヴィの方だった。彼の胸元、右手首、そして仮面がうっすらと黒紫の光を放つと、三体の召喚物は鋭く突き刺さりそうな眼光をこちらに向け、同時に椋に向かい突進して来た。
左からは黒豚が、右からは黒犬が、そして上空からは黒狐が。
逃げ場のない攻撃の中、椋は冷静に行動を起こした。
自分の能力の特権。移動中の障害物を任意で無視できるという能力を今有効活用せずしていつ使うのか。
椋は右足の光輪を消費させエンヴィに向かい跳躍する。これが最善だ。下手に逃げてしまったら攻撃をくらってしまうかもしれない。
エンヴィの目の前に跳躍した椋はその右拳をエンヴィに突き立てる。
しかしそれはまたしても謎の障壁に阻まれ中途半端に終わってしまう。
後ろから響く猛烈な破壊音が椋の耳をつんざく。それに伴って起きた衝撃波。それは簡単に滞空する椋の不安定な身体を、容赦なく地面に叩きつけそのまま2、3度転がす。
焦りに駆られ急いで立ち上がろうとすると眼前に広がる光景に椋は冷や汗を止めることができなかった。
あの三体がもう目の前で突進姿勢でいるのだから。
もがくように地面をける椋。
目的地を上空にし高さなど考えずに飛ぶ。
上昇しているあいだに訪れた衝撃波は目視できるほどに激しいもので跳躍中の椋を透過すると彼方まで続いていった。
目的地に到着し、光輪の足場の上から地上を眺める。
「嘘……だろ……」
先程の衝撃波に納得が言ってしまうほどに島は破壊されていた。削られた、ではない。無くなったといったほうが正しい。
三体の召喚物は言葉通りに地形をも簡単に変化させ、島の三分の一を消し飛ばしていたのだ。
「今多は?」
ふと先ほど逃げた朱雀生のことが頭によぎる。
もしこの衝撃に巻き込まれていたら怪我どころでは済まない。もし地形破壊に巻き込まれていたのだとしたら死体すら見つからないかもしれない。
このままでは《色欲》回収戦と何も変わらない。今は戦うよりも彼を避難させなければ。




