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鬼熊が黒紫の結晶光を放ちながら消えていく。
七罪結晶戦で一番大切なことは召喚物を相手にしないということだ。規格外の生物たちと戦って無駄死にするよりも、そんな生物よりも確実に弱い存在である召喚主を攻め、能力の発動を継続できないようにしたほうが賢明だということは《愚者》に何度も言われたし、白鳥との《色欲》回収戦でも学んだ。
単純に結晶本体を破壊するというのも手ではあるが、おそらくそれも難しいだろう。仮面、腕輪、そして黒崎と同じならば胸元にあるキューブ。計3つを破壊し、再生する前にこちらが回収するなんて器用なことができるとは思わないからだ。
おそらく『愚者の道程』を再び使うことになってしまうだろう。避けたい事項ではあるが現状はそんな事を行っている場合ではない。一体であれだけの苦戦を強いられた七罪結晶の召喚物が目の前に三体もいるのだから。しかし前のように『隠者の隠れ家』で召喚物を閉じ込めるという手も通じるとは思えない。
先ほど今多がやってのけた様に召喚物は自分の意志で結晶光に戻せ、再召喚すれば再び自分の前に召喚できる。三体の召喚物を異空間に飛ばそうと再召喚してしまえば意味がない。本当に一瞬しかできない隙を付ける自信は椋にはないのだ。
成功法というべきか、今は少なく出来た隙をついてちょこちょこダメージを与えていく以外の考えが一切浮かばない。
今やつを包んでいる謎の障壁。アレをどうにかしなければダメージが通らない。アレも七罪結晶の恩恵だろうか?真琴からの情報でエンヴィが天然結晶を所持しない謎の一般人だということは分かっている。
《愚者》が恐れていた二つ目の事項、人工結晶の使用に長けた大人だという可能性を否定できない。他の人工結晶の可能性もあるが、そんな戦闘向きな高性能な人工結晶を所持できる人間などいないはずだ。
頭の中で巡っていく可能性やらなんやらがすべて勝てないという結論に達しようとしている。
そんな流れを止めるため、今にも惨状に変わりそうなこの場所で椋は一度構えを解き思い切り両の頬叩き、気合を入れなおした。




