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《愚者》のエレメントホルダー、辻井椋に《怠惰》回収戦に関することで注意を促し、先に部屋を出た村本は自らの青みがかった特殊な装飾の施されたOLを操作し、電話をかける。
『お久しぶりです』
『………………』
『辻井椋の件でご相談があるんですけど』
『……………………』
『はい。そうです』
『……………………』
『彼はしっかりやってますよ。もう学園で彼のことを知らな人間なんていないと言っても過言ではないでしょう』
『……………』
『入学式の時点で彼は際立って異常でしたが、その異常さを負に向けず、入学後も《愚者》のホルダーとして毎日奮闘していますよ』
『…………』
『アレ?ああ、さすがにアレを見たときは焦りましたよ。なんで貴方がここに来たのかと』
『…………………』
『さすがといったところですか』
『…………………………………………』
『それはともかく、一度学園にお越しいただいてもよろしいですか?』
『……………………………………』
『はい、解っています』
『…………』
『詳しい話はまた後ほど。はい、突然失礼しました』
移動中に行った短い会話。それだけでも村本はだらだらと汗をたれながしていた。
(いつになってもあの人には逆えんな…………)
そんな自分の唯一の弱みを隠し通す自身が村本にはなかった。その弱みの原因となる人間がおしゃべりだからだ。下手したら《愚者》のホルダーである辻井椋にもこのことはバレてしまうかもしれない。
(この秘密だけは死守しなければ……)
そんな事を胸に秘めつつ、村本は少し歩く速度を上げながら再びOLの操作を始める。ボイスコールを今度は自らがもっとも信用している部下であり、血は繋がらずとも『息子』であるⅤに飛ばす。
『Vか?私だ』
『はい』
『辻井椋が答えを出した。戦うそうだ』
完結にそう述べると、Ⅴは少しの間だけだ静かになる。
『お前が個人に情を移すなんて珍しいな』
『いや、隠さなくてもいい。それにあの少年は特別だ』
『そうですね。彼は本当に不思議だ』
『それよりも』
『わかっています。今多堂太には私から連絡を入れておきます。日時が決まり次第連絡を入れればいいのですか?』
『ああ、それで構わん。では私も少し溜まっているのでな、切るぞ?』
『はい』
村本はⅤの返事を待たずして電話を切る。
「明日か…………………」
いつも以上に気を引き締めなければならない状況。戦闘場は既に確保できている。
後は選手の心だけだ。




