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2062年5月30日 所 校長室 時 昼休み
一晩悩みぬき決めた答えを村本に伝える。
昼休みといっても無限に時間があるわけではないので、椋は昼食も取らず駆け足でここに来た。
豪華な装飾の施された扉を2度程叩くと「辻井です」と一言。
「入れ」
という声を聞いてからその重たそうな扉を押す。
「もう決まったのか少年?」
デスクに向かい何らかの作業を行っている村本。同時進行で椋にそう尋ねる。
「はい。《怠惰》回収戦、やりたいと思います」
本来ならば《愚者》の目覚めを待つべきだっただろう。フールだったらどう言うだろうか?止めるだろうか?勧めるだろうか?いつも大事な選択の時に彼はいない。一番近くにいて欲しい時に彼はいないのだ。
「そうか、《愚者》の意見を仰いだのかね?」
操作の手は止めず、ただ作業を続けながら村本は尋ねる。
「いえ……アイツ今眠ってますから……」
勝手に決めてしまった。もう自分一人の体でないという事くらい理解しているのだ。無茶はできない。
今多という男が何のために試合を申し込んできたのか理解できないのだが、いつかは挑まなければならない事項を後回しにしたところでそれは決して解決しない。せっかく人を巻き込まずに戦闘を行えるチャンスがここに巡ってきているのだ。椋はこれを好機と認識した。
「本当にそれでいいんだな?速いに越したことはないからな、今からその旨を今多に伝えれば明日には対戦になるだろう」
「構いません」
一晩悩み抜いて決断したのだ。
決めたことはやり通してみせる。
決して焦っているわけではない。
しっかりと一つ一つ冷静に考えた結果だ。
「わかった。それなら今から今多に連絡を入れておこう。時間の指定はあるか?」
作業お終えたのか、村本はホロキーボードから手を離し、キーボードを不可視化させてから椋に尋ねる。
「いえ、特にありません。向こうの都合に合わせてください」
「では決まり次第追って連絡する。それまで待っていてくれ」
そう言うと村本は卓上の資料等を自らのカバンに詰め込むとそれを持ち、黒革のTHE校長椅子から立ち上がり、こちらに向かってくる。
「これは解除しておこう」
そう言って椋の胸に手を伸ばす村本。椋の体から逆流するように青い結晶光が村本に向かい戻っていく。
「これはやりすぎると寿命まで進んでしまうからな」
「そうなんですか?まぁすっごく回復も早かったですし助かりました」
「構わんよ。刻印の方はまだ残してあるからな、今多戦では確実に使うように、《愚者》の恩恵を受けられるかどうかもわからんのだ。絶対に使え」




