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 ふと、《色欲》戦の光景が脳裏をよぎる。自分の過剰な自信と、『愚者の道程』と言う保険のせいで調子に乗り引き起こしてしまったあの惨状が、だ。

 

 《色欲》と同等の存在であろう《怠惰》との戦闘。それは本当に正しい選択なのだろうか?


 そんな言葉が脳内を反復し続ける。ここで断ったところで問題が解決するわけではない。もちろん自分自身の、学園内から早急に七罪結晶を取り除くという目的も、そのついでに校長の正の《魔術師》からフールの力の断片を回収するという目的も失われたわけではない。

 しかしまたあんな悲劇を引き起こしてしまうのではないだろうか?もっと平和的な解決方法はないのだろうか?そんな考えても答えがでないであろう議題で自問自答を繰り返しているのだ。


 「まあ、今すぐに答えは出さなくても良い。今多の方も3日という猶予をこちらに寄越している。考えるには十分な時間だ。心も身体も休めながらゆっくり考えなさい」


 珍しく甘口な村本はそう言うとベッドに沈む椋に向かい手を差し出す。

 彼の手から溢れ出す青の光は椋を包み込むと静かに中に吸い込まれていく。

 この前の刻印とは違い激しい痛みはない。それどころか温かみを感じる光が違和感なく体をめぐるのがわかった。

 『愚かな捕食者』を持つため、結晶光に対する感受性が高い椋だからこそ分かるこの暖かさ。

 

 「なんですか、これ?」

 「それは『魔術師の時空時計』(ウィザードウォッチ)。私の能力の根幹だ。今から君の『時間』を加速させる」

 「どういうことですか?」

 「要するにだ。3日では治らないであろう謎の傷を私が治す手伝いをしてやろうといっているのだ。生憎私は回復系の能力は使えなくてな、代わりと言ってはなんだが、自己治癒能力を加速させることで君自信の力で体を治すという方法を取らせてもらう。君がエレメントホルダーでなければ救急に出すのだがな……」

 「《エレメント》の憑代は《エレメント》以外の能力では治療できないんでしたよね?拒絶がどうとか」

 「そう、本人の治癒能力もしくは《エレメント》を媒介とした治癒能力でなければ、《エレメント》が自然とそれを拒絶してしまう……。といっても《エレメント》は基本的に回復能力を持っているものだから気にすることもなかったんだが……《愚者》は特例といったところか……」

 

 そう、現在フールは深い眠りについている。《色欲》戦で傾山羊の四角で身体中に穴を開けられてしまい、その治療のためやむなく力を使い現状に至るわけだが、超絶高燃費のフールにそんな万能性を望むのも間違っているだろう。

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