21
スタジアムの上空に跳躍した椋は改めてその惨劇を目の当たりにした。下手したら他の一般生徒も巻き込んでしまっているのかもしれない。そう思ってしまうほどに校舎棟白虎区の風景は様変わりしていた。
スタジアムはただの平地に。その闘技場に隣接していた校舎はほぼ半壊しているといっていいだろう。集まっていた野次馬たちも自体の深刻さを受け止め次々と避難を始めている。
「こんなことって…………」
正直、こんな模擬戦闘という形で白鳥を誘ったのは隠密に物事を進めるための最良の手段だと確信していたからである。もちろん椋の思惑通りに物事が進んでいたのならば、誰にもバレることなく七罪結晶コードネーム《色欲》を回収することができたのだろう。
しかし傾山羊はそんな思想など紙切れのように簡単に引き裂いてしまった。
上空から眺める風景は嘘偽りなく地獄の門の前のようだ。まるで三つ首並べるケルベロスのように風格漂わす黒山羊。スタジアムの中央に赤一角を構え静かに佇む美しい姿はまさに地獄の門版という言葉にふさわしいものだ。
「降りてきな一年生……さっさと殺してやるよ…………」
もうめんどくさい。といった白鳥の表情は崩れていない。
本当にダルそうに、勝負が決まっている試合をただただ眺める観客のような表情が上空の椋を見つめていた。
(ごめんフール………多分これが初めての裏切りだ……許してくれッ!!)
脳内で意識を集中させる。そう、鍵を外すイメージ。複雑に絡まった鎖の中にあるひとつの錠。手元にはすでに鍵を握っているのだ。あとはそれを差し込み回すだけでいい。
(制限………解除…………!!)
鍵を回した瞬間に椋の胸元の結晶からあふれるクリアな、太陽のような光。
同時に能力を解除し霧散した『光輪の加護』の足場。その金色の光を逃さないように手を伸ばす。掴み取る。そんなイメージを脳内に張り巡らせる。
掴む。取る。喰らう。目の前にある光を。
結晶から伸びた光は確かに金色の《愚者》の光を包み込み、捕食した。
そう、この学園の入学試験で自分の分身がそうしたように、自分自身の能力をコピーしたのだ。
暖かな光が吸収された自分の透明な天然結晶を拳に握り、落下の風圧を全身に感じながら叫ぶ。
「フゥゥゥルイィィタァァァァァァァァ!!」




