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 《愚者》には悪いことをした。

 まだ完成はしていないこの技を使うのは正直気が進まない。

 

 気がついたのはつい最近蒼龍にいた頃だ。

 

 諸事情で戦闘が起こり、それを隠すためにフールが治療をしてくれたことがあったのだ。 

 その際も《愚者》は力尽き眠っていた。

 不意に考えてしまったことがあった。『フールがいない間にもアレの練習はできないものか?』と。

 《愚者》の能力、『光輪の加護』は彼が眠っている間にも使用することができる。 

 それならアレもできるのではないか?その可能性はゼロではないはずだ。

 

 出来た。

 結論から言えば出来たのだ。

 そしてフールは気がついていなかった。

 《愚者》が眠っている間、彼が制御している天然結晶、そして人工結晶の封印を椋の意思で外せるということを。



 傾山羊は相変わらず顔を傾けながら空中を闊歩し地面に降り立つ。

 あまりにも不吉なその姿。椋の血を吸ったことにより激っているかのように興奮した息遣い、真紅に輝く四角。

 何かがあるのはあまりにも明白だった。


 「だけどまぁ………死んでくれよ………」


 もう疲れたような声でそう呟いた。

 もう終わらせたいような顔で、面倒くさそうといったほうが正しいのかもしれない。


 「『超集約の赤四角』ファイナルデスティネーション……………」


 さらに続ける。

 地に降りた傾山羊の赤角が伸びうねり、絡み合い大きな一本のドリルのような形を形成する。

 凶悪な真紅の一角。禍々しさと凶悪さ。最大限まで高められたその二つが合わさったようなそれをまっすぐこちらに向け突進の姿勢をとる。


 先程の突進とは桁が違う。そう突進される前にそう理解させられる。

 

 とっさの跳躍。

 左足の光輪を使い天井ギリギリまでジャンプしていた。

 先程まで椋がいたその位置。存在しなかった。

 血を吸った一角はフィールドも、壁も、地面を削り、そして空間を削っていた。


 その後におそう暴風は闘技場を丸事吹き飛ばし、残ったのは天井もないただの跡地だった。


 「真琴!!金田君!!」


 咄嗟に洗脳状態にあるであろう二人を探す。上半分は確実に吹き飛んだであろうその場から二人を探すのは造作もないことだった。

 跳躍で出来た足場を使い、二人のもとまで跳躍。二人を掻っ攫い、スタジアム外まで連れて行く。

 二人の目はあまりにも虚ろで、まさに心ここにあらずといった様子ではあったが、この場においておくよりはマシだ。 

 きっと聞こえていないであろう二人に、

 

 「行ってくる………」


 とだけ言い、再びスタジアムに向かった。

 

 

 



 

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