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「でもそれっておかしくないっすか?」
そろーっと手を上げ、金田が二人に言う。
「だってそれじゃあエンヴィが現れる前に侵入者の情報が回ってるはずっす」
「まぁそうだね……。それに侵入者がいたなら校長か能力孤児がでばってくるはずだし……」
確か一ヶ月ちょっと前に麒麟第一寮3年生大宮亜実がそんなことを言っていたような気がする。学園の情報を盗み出した馬鹿どもを瞬殺したとかどうとか。エンヴィが侵入者だとして、それは直ぐに校長には分かることなのだろう。エンヴィとて例外なく一蹴されるはずだ。
「でもそれじゃあどうやって……」
真琴がぼそっとつぶやく。一切の説明がつかないためか、納得がいかないような顔をしている。しかし天然結晶を持たない生徒がこの学園に入学できる可能性などひとつしかないだろう。
その身にエレメントを宿している者。そう、椋と似たような境遇の人間だ。
それ以外の方法が椋、真琴共に浮かばないのだ。
「とりあえず、解明しなきゃいけないことだけど、今は《色欲》に集中しよう」
「そうね……」
相変わらず納得のいかないような面持ちではあるが、彼女も現状でこの謎を解く方法がないということは理解しているようだ。
椋自信、頭の奥になにか引っかかるものがあるものの、それが表に出てくることはなかった。
「で、それで《色欲》は探せるってことで良かったんだよな?」
「うん。でもこれを使ったらここでドロップアウトね……」
「やっぱ嫌か?」
「まぁ役に立てるってことは嬉しいことなんだけど……。最後まで付き添えないっていうのは悔しいよ……」
彼女の顔が暗くなっていく。そうしなければならない訳ではない。時間をかければ探すことだって可能だ。しかし現状それは望ましくない。
《色欲》の所持者は確実にエンヴィに狙われることになるだろう。エンヴィが必ずしも戦闘用フィールドを展開するとは限らない。
時間がない。
この一言が真琴の思考を端に追い込んでいた。




