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この身動きが完全に封じられた電車の中、身動きが取れるはずもなく、首だけを必死に動かしてどうにかその方向を見ようとする。自分の身長ならば周囲を見渡せるのではないかと思っていたものの、世の中そんなに甘くはなかった。少し上から見る光景では皆が皆ほとんど同じ身長に見えてしまい判別ができない。というより校舎から出てきた最後の4人の人物像ももう思い出せないのだが。もしかしたら座ってるのか…。
「どう?わかりそう?」
真琴から聞こえる小さな声を何とは拾い上げる。
「ごめん、わからないや……」
「そう…」
自分に非があるわけではないが少々引け目の様なものを感じてしまう。とりあえずここからはどんどんと人が減っていく。降りるタイミングさえ間違えなければ見逃す事はないだろう。
一度電車が止まると、一気に複数の人間が電車を降りていく。
「真琴?」
「大丈夫…動いてない……」
その言葉を聞居ても安心できないのが現状である。人の波にさらわれないように右手で吊革に必死でつかまりながら波が止まるのを待つ。その間椋は空いた左手で真琴の手を握りはぐれない様に注意する。そんな真琴尾行動の意味を理解したのか空いた手で金田の手を握り、それがやむのをひたすら待った。
意外なことに座ることはできないがそれなりに余裕ある空間になった。おそらく先の授業受講者のほとんどが次に向かう校舎を同じとしていたのか?とまあそこで下りない生徒がいるという事はその生徒はすべて芸術家の授業を取っているわけではなく合間合間にまた別の教科を取っているのだろう。
そんなどうでもいいことで想像を膨らましながら、一つ安心のため息をつく。
ドアが閉まり電車が発車した。つまりこの空間の中に所持者がいる。
「真琴、わかるか?」
「うん、確定だね。あの人だ…」
真琴が再び同じ方向に指をさす。自由になった体でその方向を見る。男、高身長、制服だけで学年を見分けることはできないため2年生か3年生かという事までは判断できないが、その顔を必死に覚える。綺麗な顔立ちをしている。髪も肩ほどまである長さ。そして何より細身ですらっとしている。後ろから見たら女性に見えてもおかしくはなかったはずだと思えるほどだ。こんな特徴的ならば簡単に覚えられる。後はこの人が電車から降り、次の校舎に向かうのを待つだけだ。




